中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

2023-01-01から1年間の記事一覧

子どもたちに届け『夜光貝のひかり』(遠藤 由実子)

こういうのは知っておかなくちゃいけないことだけど、どこかでブレーキをかけないと、自分の心が持たない。(本文より) 戦争の話題を織り込んだ少年の成長物語。 出題実績のない作家の6月発売の新作だ。 奄美大島で起きた悲劇が超勉強になった。 主人公の…

名門校向け素材『百年の子』(古内 一絵)

子どもが読んでわくわくする物語は、大人が読んでもわくわくするものなのだ。(本文より) 割と入試に出る作家の先月発売の新作だ。 出版社を舞台にしたお仕事小説なんだが 完全大人向けで普通の小学生には難しい。 教育関係者に薦めたくなる一冊だったわ。 …

芽吹くリーダーシップ『アップサイクル! ぼくらの明日のために』(佐藤 まどか)

よきアドバイスや気づきにあふれた一冊。 割と入試に出る作家の来月発売の新作だ。 中学生達が夏休みの課題に本気で取組む という筋書きは出題者に好まれそうだよ。 テーマ的にもSDGsど真ん中で要注目。 子供たちがああでもないこうでもないと 話し合う…

大人に激推しの中受小説『ギフテッド』(藤野 恵美)

思うに、日本ではギフテッドプログラムが普及していない代わりに、中学受験とか進学塾が、その受け皿になっているんじゃないかな。(本文より) 失礼極まりないんだが読み終わった瞬間 「こいつスゲェこいつスゲェ天才だ」と 一息に言って著者略歴を凝視して…

中受小説『小さな挑戦者たち』の話題

『小さな挑戦者たち: ~サイコウの中学受験~』(騎月 孝弘) 10/4発売予定の中受小説なんだけど 既に何作品か出した実績のある小説家で かつ現役講師が描いたっていう新作だわ。 この情報だけでもそそられるじゃないの。 しかも公式によれば以下のような…

もう一度、あの場所で『八月の御所グラウンド』(万城目 学)

3ヶ月早く出ていれば2024年入試で 台風の目になっていたかもしれない作品。 入試ではあまり見ない著者の新作だけど 書店で目立ってたし出題者も多分気づく。 駅伝の話と草野球の話の二編が入ってる。 青春+駅伝=出題の公式に当てはまるし、 『十二月…

強烈にメッセージが響く『溺れながら、蹴りつけろ』(水瀬 さら)

あたしたちにとっては学校は世界のすべて。だからこの場所で生きづらくなったら、もうおしまいだ。(本文より) ラノベ寄りの作風だった著者の新作だわ。 中受界隈ではノーマークなんだろうけど この作品の訴求力は期待値を越えてたわ。 ただ、中盤までは結…

ヨソ者少女の真意『ぼんぼん彩句』(宮部 みゆき)

売れてる短編集等で主人公が子供の話は 大人向けの本でも入試でよく選ばれるよ。 ただ『ぼんぼん彩句』はベストセラーで 子供視点の短編も多いんで注目してたが あんまし素材の使い勝手は良くなさそう。 すごく惹かれるし面白くもあるんだけど、 サスペンス…

大輪の華『夜空にひらく』(いとう みく)

この界隈ではシリアスみくは注目度大と 断っておいたがさらに上をいかれたわ~。 純粋に物語として面白く得るものが多い。 かつ伝統文化の継承にも貢献しうる内容。 しかも花火にまつわる知識が増えるから 花火鑑賞をいっそう楽しめるようになる。 何かの賞…

これもイイネ『ひとっこひとり』(東 直子)

人は裏切るが、自分で身につけたものは自分を裏切ったりしない。(短編『覚えてる?』本文より) たまに入試に出る著者の7月の新作だわ。 歌人だけあって言葉選びがすごいっすね。 大人向けの作品だと思うが読みやすいよ。 品揃え豊富な12編が詰まった短…

ただでは終わらせない流儀『それは誠』(乗代 雄介)

こんなことして先生たちだましてんの、うちの班だけでしょ、絶対。(本文より) まれに出題される作家の新作なんだけど 芥川賞候補作なので注目度は高めだろう。 主人公が高校生って点も気になるところ。 大人向けの小説でも、学生視点の作品は 作問者に選ば…

出題されるかもしれない新刊本(2023年9月前後)

9月以降に出る作品はその年度の入試で 国語素材に選ばれることがほとんどない。 桜蔭中のようなごく一部の例外はあるが、 多くの先生方はもう作問に着手している。 そういう際どい時期の新刊本紹介ですわ。 なお、公立高校の入試問題では10月や 11月の…

知らない世界を感じさせてくれる『リスペクトR・E・S・P・E・C・T』(ブレイディ みかこ)

あたしたちは、弱いものを守らなきゃいけないときに初めて強くなれる。(本文より) 2023年入試向けの出典予想で6位の 『ぼくイエ2』は出題が確認できないが 1の方は今年も出てたし引続き要注目か。 さて、今回紹介するのは今週発売の新作。 女子学院…

コロナ禍に揺れる学生たち『おくることば』(重松 清)

もしもウイルスがなかったら、いま、どんな三学期なんだろう、って。そういうのをずっと考えてる。(短編『反抗期』の本文より) 読めばあとからじんわり来るのが重松節。 ただし、この本は早大の教え子たちへの 私信のような話が半分近くを占めている。 と…

新しい世界の扉がひらく?『物語の種』(有川 ひろ)

抜群の安定感を誇るあの有名作家による 好きをとことん突き詰めた短編集ですわ。 わりと入試に出てる著者ではあるんだが この作品はさほど使いやすそうではない。 10編には子供視点の短編も含まれるが 会話などのちょっとノリが軽すぎる印象。 書店で平積…

未来を信じさせてくれる『私たちの世代は』(瀬尾 まいこ)

『夏の体温』が2023年入試で最頻出。 そんな作家が先月出した注目の新作だわ。 子ども時代にコロナ禍を経験した2人の 大人時代と子ども時代を交互に描いてる。 はじめは時間軸の移ろいに戸惑うかもな。 ま、素材文適性が高い作品なのは確かだ。 全体を…

【本気レポート】どんなに心が挫けても ~或る公文男子の矜恃~

今回紹介するのはピアノをこよなく愛する少年の受験エピソードです。 彼は繊細で落ち着いた雰囲気をまとっている一方で、剣道に打ち込み続ける中で培った熱も内に秘めています。 迷いながら進む彼ら親子の歩みの中には、大切な、大切な気づきがあります。 こ…

傷口に癒しを塗り込む『ぼくはなにいろ』(黒田 小暑)

新米作家の1月に発売された2作目だわ。 これは紹介するかどうか、かなり迷った。 出題実績ナシ、官能要素アリだったんで。 大人パートと中学生パートに分かれてて、 前者は子供向けでない描写が一部あるが、 後者は素材文適性が抜群なんだもんな~。 不登…

外せない力作、入試定番作品8選より『給食アンサンブル』(如月 かずさ)

大事なのはハート。変わろう、というハートがあれば、どんな小さなきっかけでも人は変われる。(本文より) 一歩踏み出す勇気をくれるアンソロジー。 今年も入試で使われてた定番中の定番だ。 前に紹介したように2も出ているんだが これを機に1にも注目し…

スルーされて欲しくない『虹色のパズル』(天川 栄人)

中学入試でも注目され始めた作家の新作。 LGBTのみならず生きづらさを抱える 多くの人びとの共感が得られそうな本だ。 ジェンダーフリーが深掘りされててイイ。 終盤なんて大人世代も必見だと感じたよ。 タイトルに込められた想いってのも粋だ。 頭の固…

これはオトナの短編集『獣の夜』(森 絵都)

頻出作家の新作だが子供向けじゃないわ。 一校ぐらい素材文にする学校があるかも 知れないけど要チェックって程じゃない。 表題作なんて子どもには見せたくないし。 大人の男女のどうしようもなさが・・ね。 一応、小4男子視点の掌編もあるんだが 素材文に…

出題されるかもしれない新刊本(2023年8月前後)

8月ともなると、その年度の中学入試で 選ばれる作品がガクンと減ってくるわな。 大体の先生は既に心に決めた一冊がある。 一方、決め切れてない先生も少しはいる。 そんな際どい時期の新作を紹介していく。 追加で判明したらこの記事に追記するよ。 7/20発…

冴えわたる崩しの妙『教室のゴルディロックスゾーン』(こざわ たまこ)

「そんなんだから、いじめられるんじゃないの?」思いがけない言葉に、頭が真っ白になった。(本文より) 中高生に刺さりそうな要素満載の新作だ。 受験界隈じゃ手垢のついてない著者だが この作品は埋もれたお宝って気がするな。 物語に「崩し」が入る場面…

新人作家、王道を往く『エール! 主人公なぼくら』(室賀 理江)

室賀理江の5月発売のデビュー作ですわ。 文章も構成もまったく新人ぽくない感じ。 少年の成長を描いてく展開はまさに王道。 成長のきっかけの部分は新しいけどな? 素材文適性は結構ありそうに俺は感じた。 王道ど真ん中で粗削りな感じもしないし。 入試出…

ヤングケアラーに自由を『藍色時刻の君たちは』(前川 ほまれ)

自分を犠牲にして他人を助けることは、そんなに大事なことなんだろうか。(本文より) 出題実績がなさそうな著者の新作ですわ。 高校生らしい生活もままならない3人の ヤングケアラーの歩みを描いた衝撃作だ。 文科省調査だと世話している家族がいる 小学生…

新たな定番作品あらわる『この夏の星を見る』(辻村 深月)

4月から俺が騒いでた作品がついに出た。 これは入試で長年使い続けられるだろう。 2024年版は秋以降にリリースするが もし2023年版の出典予想に混ぜたら まちがいなく1位になっているレベルだ。 何しろ素材文に適した箇所が多すぎるよ。 前に出題…

激アツ、胸アツの新境地『どすこい!』(森埜 こみち)

たまに出題される作家の1月発売の作品。 清らかな物語をつむぐイメージの著者が 新境地に挑んだ感のある熱血相撲小説だ。 紹介してきた本の中では最も易しい部類。 普通の4年生でも十分に読めるだろうな。 3年生以上の模試によさそうな感じだよ。 主人公…

つながりの輪を広げて『アゲイン』(あんず ゆき)

「あのさ、わたしがなんで一生懸命勉強してるか、わかる?親をあてにしないで、自分の力で生きていくためだよ」(本文より、主人公の姉の言葉) 中学年向けの作品で存在感のある著者が 高学年向けに描いた来月発売の新作だわ。 貧困やフードロスを真正面から…

心に芯を入れてくれる『鳥』(小手鞠 るい)

たまに出題される作家の5月の新作だわ。 中2の少女たちの国境を越えた交流の話。 お互いに詩を送り合ったりするんだけど 短い詩に凝集された想いがスゲーんだわ。 うっわ、この詩一番イイ!とか思ったら その後で軽々と上回ってきたりするしよ。 ラストの…

それでいいよと語りかける『ふたりのラプソディー』(北 ふうこ)

あのねぇ。六年生の二学期ゆうたら、みんな中学受験のことで頭いっぱいなんよ。(本文より) たぶん、受験界隈ではノーマークの著者。 低学年以下向けが中心だったベテランが 高学年向けに挑戦した先月発売の新作だ。 芸人父娘の会話の弾みっぷりがすごいよ…