なんでわたしが親の都合で住む家をここまでコロコロ変えられなあかんの。(本文より)
『水を縫う』で有名な著者の8月の新刊。
ひとことで言うと、煮え切らない青年が
出会いをきっかけに変貌を遂げる物語だ。
道に迷ったとき決断を後押ししてくれる
このうえない地図が得られる本だと思う。
大人に振り回される中学生の嘆きだとか
心にズシリとくる部分もあったんだけど
そういうのがあるからこそ終盤がキラリ。
面白かったのは、女子は好きな人の話が
仲良しのファストパスになるってネタだ。
例の難易度分類では難しいになるだろう。
以下は出版社に送ったレビュー全文だよ。
「善く生きる」という言葉。
大切な場面で道を誤らないために私もその理念を心に刻みたいと感じました。
主人公は父を亡くしてから霊のようなぼんやりした何かを感じるようになった青年。
うす気味の悪さに慣れず、塞ぐ気持ちを紛らせるよう真夜中に出歩く日々の中で、彼は思わぬ出会いを重ねていきます。
やがて夜の散歩に加わっていく面々も、それぞれに深い苦悩を抱えながら、ままならない人生を歩んでいました。
出会いを大切にしたくなる一冊ですね。
確固たる自分がなかった主人公が、真夜中の邂逅を出発点として意志を貫けるようになっていく流れがまぶしくもありました。
正直、途中までは主人公のことを無感動なしょーもない奴だとか、軽んじられるのも無理はないだとか、思わないでもなかったのですが、最後には見事にそんな評価を打ち砕いてくれましたよ。
メチャメチャ魅力あるじゃん!
「善く生きる」という信条を生き方に落とし込む男の有り様が読者に波紋を投げかけてくる一冊。
読み手一人ひとりがその言葉を胸に刻むことで、みんなの明日がほんのり明るくなると信じられます。
たとえばさ、クラスの子と話す時に、「好きな人おる?」みたいな話になるやん。その時、「おる」って答えるのと、「おらん」って答えるのとでは、やっぱり前者のほうが圧倒的に話が盛り上がる。いろいろすっ飛ばして一気に親しくなれる。(本文より)