俺、よく覚えてるんだ。捨てられた瞬間。雨の夜、傘をさす人が行き交う中で、母親が急に俺の手を振りほどいて、走り去ったんだ。(本文より)
昨年、桜蔭入試への採用で注目を集めた
植松三十里先生の9月に発売された作品。
今回の本は大きな志を持った女性の伝記。
歴史小説の名手が多くの子供達を救った
三菱令嬢、沢田美喜さんの歩みを描くよ。
米兵が日本に残して社会問題化していた
ミックスルーツの幼い命を支えるために
全身全霊で施設を立ち上げた人物の話だ。
伝記って内容が賛辞だらけだと退屈だが
本作は失敗も含め描かれているのがイイ。
時代背景的にセーフだが今ならアウトな
部分も包み隠さない潔さがあるんだな~。
助けたい、見守りたい、まっすぐにあれ、
そんな感情が暴走する様も魅力的に映る。
彼女が心血を注ぎ1600人が巣立った
児童養護施設は今も受け継がれているよ。
偉大な女性の業績に光を当てた本作だが
難しいのでわりと読書力が求められそう。
以下、その生き様に心酔した俺の感想だ。
岩崎弥太郎の孫娘を描いた伝記小説。
財閥解体による没落、外交官だった夫の公職追放といった時代の荒波に翻弄されるなか、三菱令嬢が世間の風当たりにもめげず、身を削りつつ、託された子どもたちの命をつなぐために奮闘します。
親が米兵だからと何の罪もない子どもたちがうち捨てられた現実の重さに打ちのめされました。
そんな行き場を失った命を守り通すための闘いが刺さらないわけがありません。
資金集めの教会スピーチや、救われた親子の言葉など、心を鷲掴みにされる場面が山のようでした。
なかでも感謝が沁みるカーネーションの逸話は素晴らしかった!
美談に終始せず、令嬢の好ましからざる部分や子どもたちの罪、巣立ち後の苦衷まで描かれていたのには驚きましたよ。
理想と現実のギャップと誠実に向き合っているところも本作の魅力ですね。
自分にしかできないことで、広く社会に貢献した彼女の生き様を目の当たりにして、私には一体何ができるだろうかと思わずにいられませんでした。

日本人は戦場で死に、空襲で死に、あまりに多くの死に接しすぎて、命を軽んじるようになってしまった。でも、それが許されるはずがない。(本文より)