中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

あまりに偉大な長編作品『山ぎは少し明かりて』(辻堂 ゆめ)

個性も、特技も、肩書も、目標もない。だからこそ、これからの自分次第で、何者にだってなれるんじゃないか。自分が何者か、分からない今が貴重なのだ。(本文より)

 

今年の桜蔭作品と肩を並べるような大作

入試では見ない作家の11月発売の本だ。

 

当然、中受界隈での注目度はゼロだろう。

 

読友さん達の推奨が激しいんで読んだが

いっぺんで重厚さに魅せられちまったよ。

 

この本に気づける作問者は稀だろうけど

素材文適性はそれなりにありそうですわ

 

特に注目したいのは主人公の10歳から

23歳あたりまでを描いている三章序盤。

 

素材によさそうな三章序盤のシーン

△足を負傷し少年に助けられる10歳時

△幻想的な蛍の光が舞いおどる10歳時

△冬限りの奉公先から帰郷する17歳時

△男が戦争に取られ農村の生活は過酷に

〇妹を思うがゆえに優しい嘘をついた日

 

戦時中の農村は食べ物があり空襲もなく

生活苦は都会ほどでないと誤解してたが

男衆不在での農業は過酷を極めたんだな。

 

当時の暮らしがどれほど大変だったのか

圧倒的な臨場感をもって伝わって来たよ

 

難易度では紹介作品の中で最高水準だし

これが小学生で読めたら只者じゃないな。

 

味わい深さで群を抜く魅力がある本作品。

俺のレビューの真ん中へんはこんなだよ。

 

三代にわたる女の歩みを描いた大作です。

迷える大学生の孫娘を描く一章で爽やかな気持ちになり、仕事人間の娘を描く二章には切なさと驚きを覚え、彼らの源流となった女性を子供時代から描く三章では全てに圧倒されました。

故郷にこだわる気持ちが、並外れた思い入れが、幼少期からのドラマを通じてしかと伝わってきますね。

だからこそ、村に降ってわいた出来事で人々の心が引き裂かれていく様が驚くほど胸に迫りました。

 

『山ぎは少し明かりて』感想・レビュー

 

東大出身作家の新境地(2023/11発売)