中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

2024-01-01から1年間の記事一覧

出題されるかもしれない新刊本(2024年8月前後)

来春の入試を一つの区切りと捉えた場合、 今期の作問選書シーズンもそろそろ終幕。 殆どの作問者は8月までに選書を終える ゆえに後に行くほど採用率は下がってく。 8月は7~9日に新作がドカドカ来るな。 いつも言ってるが、以下は大部分が未読。 出題向…

人生、凪いでる場合じゃない!『もしもわたしがあの子なら』(こと さわみ)

発売即重版となったって触れ込みの新作。 ポプラズッコケ文学新人賞大賞受賞作だ。 ざっくりとワンフレーズで言っちまうと 普通女子が全然違うキャラの少女2人と 入れかわる体験を通して気づきを得る話。 なりたい相手になるって夢があるよな? ま、楽しい…

これも中学受験小説『息が詰まるようなこの場所で』(外山 薫)

子供に残せる資産を持たないサラリーマン家庭の場合、学歴だけが頼りとなるため、小学校低学年から塾に通わせることが常態化している。(本文より) 中学入試の出題候補作品としてではなく 中学受験小説としてすすめたい一冊だよ。 タワマン文学とかカテゴラ…

その強さの源は『明日、晴れますように 続七夜物語』(川上 弘美)

そりゃね。簡単にイジメをやめさせることができるくらいなら、最初からイジメは受けないよね。(本文より) 芥川賞選考委員を務めるような大御所で 中学入試ではあまり見ない先生の新作だ。 成長過程の真っただなかで葛藤しまくる 小学四年生の少年と少女の…

人知れぬ葛藤と涙『わたしは食べるのが下手』(天川 栄人)

友だちに人の悪口を言って欲しくないと 感じる少女の人間性が刺さりましたわ~。 児童ペン賞、日本児童文学者協会賞など この1年ほどで様々な賞の受賞歴がある 天川栄人先生の6月発売の新作2冊目だ。 この先生はここ数年で入試に出るように なってきてい…

読みやすさが際立つ『すきなあの人』(神戸遥真, 令丈ヒロ子, 少年アヤ, こまつあやこ)

わたしたちはいつだって、“みんな”の輪からはみでないように、気をつけているはずなのに。(本文より) 有力作家4人が好きをテーマに競作した 君色パレットシリーズのなかの一冊だよ。 2期の3作品の中では最も読みやすそう。 面白さって点では令丈先生の…

謎めく舞台の真相は?『六月のぶりぶりぎっちょう』(万城目 学)

『八月の御所グラウンド』が頻出だった 万城目学先生の6月に発売された続編だ。 前作は1月の直木賞受賞効果が残るので 引続き要チェックということになりそう。 今作は不思議&ミステリ色が濃いぃので 素材文適性っていう面での注目度は低め。 ただ、登場…

大人が教えてくれないこと『あるいは誰かのユーウツ』(天川 栄人)

思いがけないドラマがとびっきり楽しい 天川先生の先月発売されたばかりの新作。 物語の舞台は共学の公立中高一貫校だよ。 題材はよくある物からそうでない物まで 実に多彩でしかも考えさせられるんだわ。 コンプレックスの闇に囚われる子供達に あるがまま…

最頻出作家に会える!

子どもにとって読んだことのある作品の 作家に会うのって特別な体験になるな~。 うちの娘は去年いとうみく先生に会って ますます作品の世界にのめりこんでたよ。 サイン本は嬉々として学校に持ってって とびきり仲良しの子に貸したりもしてた。 すると、お…

先入観をぶっ飛ばせ『いつか、あの博物館で。: アンドロイドと不気味の谷』(朝比奈 あすか)

人間みたいに行動して人間みたいに会話できるようになったら、そのアンドロイドは人間と何が違うというのだろう。(本文より) 人間に似せるよう作ったモノの好感度は リアルなほど上がるんだが、ある水準を 越えると不気味って声が増えるんだって。 その境…

仰天、ミラクル小学校『6年2組なぞめいて』(吉野 万理子)

別に好きじゃないことでもいっしょうけんめいやると、本当にすきなものが見えてくるのかもしれないな。(本文より) 短編小学校シリーズの先月発売の新刊は、 タイトルから連想できるように奇想天外。 現実の壁を軽々と蹴破る愉快な15短編。 それでいて学…

軽妙テイスト、ほんのり甘い『ひみつの相関図ノート』(望月麻衣, 如月かずさ, 神戸遥真ほか)

読者を驚かせる楽しい罠が盛り込まれた 8人の児童文学の旗手による競作短編集。 トコトン子供の感性に寄り添う作風だし 胸の高鳴る作品との出逢いになるだろう。 不思議要素やびっくり要素が濃いぃから 問題文にはあまり向かないかもしれない。 とはいえ、…

わかり合えることの祝福『girls』(濱野 京子)

自分のことをわかってほしいとか、相手をわかりたいとか、そういうのは必要ないと思ってきた。(本文より) わりと入試に出る作家の6月の新作だよ。 苦悩を抱え込んだ3人の少女たちの絆が お互いを知ることで深まっていく筋書き。 彼女達が前を向き困難に…

新米部長のステップアップ『凜として弓を引く 初陣篇』(碧野 圭)

知ってる?弓道は高校から始めても全国に行ける、数少ない運動部なんだぜ。(本文より) 弓道モノは中学入試より高校入試の方で 出題されてるのを見るような気がするな。 今回紹介するのはシリーズ三作目だけど 前の作品は都立西高の入試で使われてた。 高校…

出題されるかもしれない新刊本(2024年7月前後)

7月発売の本はちょっと少な目のようだ。 いつも言ってるが、大部分が未読なんで 多分出題向きじゃない本も混じってるよ。 7/1発売 『いつか、あの博物館で。: アンドロイドと不気味の谷』(朝比奈 あすか) 4人の中学生男女の3年間を描く群像劇。 7/18発…

情熱よ、燃えうつれ『光の粒が舞いあがる』(蒼沼 洋人)

つらいときは、今までもたくさんあった。そのたびに息を吸って、歯をくいしばって、がまんしなきゃ、って自分にいいきかせてきた。(本文より) 前作のクオリティはハンパじゃなかった。 作問後の8月末に出たため中受界隈では 注目されなかったが2ヶ月早く…

疎外感と生きてゆく『あの空の色がほしい』(蟹江 杏)

ママは私をユニークな子だって言ってたけど、私だって本当は自分が仲間はずれにされるのが怖いんだ。(本文より) 頻出作家を追っていては気づけない新作。 画家が初めて描いた小説ってことなんで あんま期待してなかったが、超いいわ~。 所謂発達グレーゾ…

エピソードに宝あり『女の子たち風船爆弾をつくる』(小林 エリカ)

「ごきげんよう」は伝統あるこの学園発祥の挨拶なのだから。(本文の跡見学園を描いたパートより) 麹町学園の歩みを紹介する公式ページに 戦時中、雙葉や跡見の生徒たちとともに 風船爆弾の製造に従事したと書かれてる。 何を作っているのか知らされないま…

未来を照らしてくれる『いつか月夜』(寺地 はるな)

なんでわたしが親の都合で住む家をここまでコロコロ変えられなあかんの。(本文より) 『タイムマシンに乗れないぼくたち』や 『水を縫う』で有名な著者の8月の新刊。 ひとことで言うと、煮え切らない青年が 出会いをきっかけに変貌を遂げる物語だ。 道に迷…

終末のドラマ『それでも私が、ホスピスナースを続ける理由。』(ラプレツィオーサ 伸子)

人生は作者のいない物語だ。(本文より) 教師だった母は志願して病院内の学級に 赴任したが長くは持たず異動を願い出た。 教え子の命の灯が次々と消えていくのが 繊細な俺の母にはつらすぎたんだろうな。 さて、今回紹介する本は、死にゆく人に 向き合い、…

救いの泉『あなたの言葉を』(辻村 深月)

学校のテストと違って、実は世の中には「正解」がないことがほとんどです。(本文より) 毎日小学生新聞に連載されたエッセイ集。 子どもたちに上からではなく同じ目線で 語りかけるから共感を呼びまくりそうだ。 つらい気持ちを救ってくれるさまざまな エッ…

『きみの話』の快記録

『きみの話を聞かせてくれよ』といえば、 今年の入試で話題をさらった作品だよな。 現在わかっているだけで出題校数20校。 これは今年だけでなく、過去に遡っても 出題件数の新記録になるんじゃないかな。 【2024年中学入試出題20校リスト】 駒場東邦中学…

家族の絆が沁みてくる『みかんファミリー』(椰月 美智子)

割と入試で見る作家の8月に出る新作だ。 近年のこの先生の作品の中では多分最強。 中1女子の困惑に満ちた新生活ってのに 引き込まれ、家族の気持ちの移ろいには もう完全にノックアウトされちまったよ。 テーマも文章難易度も素材にピッタリで、 それでい…

そこかしこに人生訓『6days 遭難者たち』(安田 夏菜)

こんな山、どうってことないって思ってたのに・・・・・こんなことになるなんて。(本文より) 安田夏菜先生の先月発売された新作だよ。 現実に折り合いをつけることに悩んでた 3人の女子高生が山で絶体絶命に陥る話。 追い込まれた彼女たちがどう変わるか…

葛藤が心を射抜く『王様のキャリー』(まひる)

この俺が、わざわざお前のために嫌なこと我慢すると思うか?(本文より) 講談社児童文学新人賞の大賞受賞作だよ。 発売日は2ヶ月以上先の8月下旬ですわ。 eスポーツをめぐる友情を描いた新作だ。 ふだんは本に見向きもしない子たちさえ 振り向かせるよう…

その印象はどう変わる?『きらいなあの人』(工藤純子, 蓼内明子, 花里真希, 黒川裕子)

傷を治すためには、痛くても怖くても、ほんの少しだけ勇気を出さなきゃ。(本文より) 入試でおなじみの作家さん達が揃い踏み。 君色パレットシリーズ2期の注目作品だ。 タイトル通り嫌な誰かが登場するんだが もちろんそのままで終わらないんだな~。 各話…

令和のクラスメイツになるか?『6年1組すきなんだ』(吉野 万理子)

大人になるというのは、自分のすきなものにお金を使えるようになる、ってことだと思うな。(本文より) 一話10ページあまりでサラリと読める 6年男女15人の視点で描かれた短編集。 ここではあえて紹介してこなかったけど、 この短編小学校シリーズは5…

あきらめない、くじけない『浅草蜃気楼オペラ』(乾 緑郎)

帝劇でも、ローヤル館でもない。自分が一番輝ける場所は浅草だった。(本文より) かつて大正の頃、活動写真が流行る前に 浅草で歌劇ブームがあったってハナシだ。 大衆の中で燃え広がったオペラへの熱は 時代や世相に流されつつ冷めてくんだな。 その浮き沈…

脇役が舞台に!『なんでもないあの人』(濱野京子, 林けんじろう, 椰月美智子, 昼田弥子)

人間は、わからないことがそこにあるなら、わからないまま向き合うしかない。(本文より) 多様性をみつめるショートストーリーが うたい文句の君色パレットシリーズ2期。 豪華な作家陣がズラリと並ぶ凄い企画だ。 収録作品『レッドさん』(濱野 京子)『福…

こんな爽快なのアリ?『夜と跳ぶ』(額賀 澪)

そう、スケートボードはストリートで生まれたスポーツなのに、街では邪魔者なわけ。(本文より) 割と入試に出る作家の来月発売予定の本。 スケートボードって珍しい題材を扱うよ。 パリ五輪に無関心すぎる金メダリストと 五輪を撮りたくて仕方ないカメラマ…