中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

“魔法の音”は心地よく『ヒカリノオト』(河邉 徹)

音楽に勇気づけられ、何もないところから力が湧き上がってくる。(本文より)

 

作問選書もたけなわのころに発売された

読み友さんたちの評価がもの凄い短編集

 

音楽業界の片隅で足掻くアーティストが

置き土産のように残した渾身のソングが

めぐりめぐって人々の運命に働きかける。

 

一言でいうとこんなストーリーだったわ。

 

とりわけ素晴らしかったのは、第一話の

恩返しを生きがいと決める青年の心意気。

 

動画作りにのめり込む青年の話も面白い。

彼の危うい恋路からは目が離せないよ~。

 

素材文適性が高いのは『マホウノオト』

 

音楽センスに恵まれた高校生が合唱祭で

思わぬ経験をするっていう青春小説だよ。

 

クラスメイトの優しさを痛みに感じたり、

意外な行動で強いメッセージを放つ瞬間、

このあたりが技あり選書になりそうかな。

 

未来を信じられない主人公の変化に注目。

 

やっぱ合唱モノはいいと実感できたわ~。

 

全体の難易度はやや難だけど件の短編は

学生視点ということもあって読みやすい。

 

音楽の力が歓喜へいざなうストーリーは

幅広い年齢層に刺さるんじゃねーかな?

 

以下は俺が書いたレビューの要約版だよ。

 

バイタリティが湯水のように湧いてくる一冊。

玄人好みの売れないシンガーソングライターが残した楽曲が、人々の心を動かしていくさまを描いた連作短編集です。

駆け出し芸能マネージャー、燃え尽きそうなOL、一目惚れの青年、不安に囚われる少女など、心が悲鳴を上げそうな彼らが、音楽の力に導かれて人生の転機を迎えます。

読むほどに増幅されるアツさが心をいっぱいに満たしてくれますね。

噴きこぼれそうな感動のやり場は、今この場所。

一音一音にこだわった言葉の連なり、美しい詞が聴かせてくれるくれる奇跡、あなたも感じてみない?

 

『ヒカリノオト 』感想・レビュー

 

短編『マホウノオト』でピアノ少女は・・(2024/5発売)

 

未来はわからない。不安もある。でも、悪いことばかりじゃない。私の知らない、スマホでは得られない、魔法のような体験がきっと待っている。(本文より)

 

尊敬される生き方『さよなら校長先生』(瀧羽 麻子)

時折、胸の内で燃えさかる感動を、誰かに伝えたくてたまらなくなる。(本文より)


主人公は9歳女子から60代男性までの

6人という実に色とりどりな連作短編集。


入試でおなじみの作家の12月の新作だ。


尊敬される教育者だった先生と関わった

人々の視点で故人の解像度を上げていく。


あくまで子ども第一という出発点で考え

しなやかに現実に落とし込んでいこうと

考え行動する先生の姿が印象的だったよ。


素材文適性は1章、6章、5章の順かな。


問題文にしやすそうなくだり

1章◎小3男子の学校トラブルに神対応

6章〇小5男子のその後を変える出来事

5章〇小3女子の後ろめたさを受容する

6章△教育実習生の勇み足への言葉掛け


まぁ、使い勝手は最高だがタイトル的に

校長の部下の立場では選びにくいかも?


やや難だがどのレベルの学校でもいける

この作品の感想後半パートはこんな感じ。

 

教師モノってたまに、過度な熱血で本物の先生が読んだら怒りそうなのを見かけますが、この作品は大丈夫。

自信を持って先生方にも薦められる逸品です。

特に教師の視点でその道への原点が語られる『深呼吸』。

これは子どもと向き合うにあたっての大原則がじんじん沁みる作品でした。

故人の意外すぎる一面が垣間見える『うちわ』、立派な教育者とて思い通りの子育てをできないものとわかる『スーツ』も素敵。

自分の気持ちを大切にという『こんぺいとう』、トラブルに神対応をみせる『コンパス』も外せないですね。

『連絡帳』の「もう少し本人の力を信じてみては?」という趣旨の言葉も心に残りましたよ。

結論、全部良い。

 

『さよなら校長先生』感想・レビュー

 

なんたる訴求力!(2024/12発売)

 

いやいや入った学習塾は、いざ通ってみると思いのほか楽しかった。考えてみれば、当然だった。(本文より、ある教師の回想)

 

魂を灼かれるような『17歳のサリーダ』(実石 沙枝子)

高校二年生になるものだと、去年の今頃は疑いもしなかった。(本文より)


今年の受験者数日本一は5千人が受けた

1/10の栄東A東大クラスだった模様。


そこで著書が使われたことで注目される

作家の12月に出たばかりの新作だよ~。


素材文適性は出題作を100だとすると

今作は300にも400にもなるだろう。


有数の進学校にしてお嬢様学校から離れ

漠然とした不安に溺れそうだった少女が

運命の出会いを機に浮上していく物語だ。


人生で経験することはすべてが糧になる。

いま見えてる世界なんてちっぽけなんだ。


こんな理念がじわじわ伝わってくるよ~。


迷いを断ち切ったり、受け入れたりする

きっかけをくれそうな作品だと感じたな。


特に問題文にしやすそうなのは主人公の

感情の激しい振れ幅が描かれてる中盤か。

この山場は物語に引き込む力もすごいよ


悩める人々に力をくれる本作の難易度は

中学受験に出る作品の中ではやや難相当。


以下、未知のジャンルを知る喜びもある

この本に俺が書いた激賞のレビューだよ。

 


生きる活力をくれる一冊。

 

傷つき、しおれることを余儀なくされていた少女が、“はぐれ者の舞踊”との出会いで自分を目いっぱい咲かせる物語です。

 

鳥肌やばい!

読み返してまた鳥肌とか何コレ?

 

彼女たちを追い込んだいじめの根深さには震撼しましたよ。

際限のない痛みに胸が苦しくなるほどでした。

 

それだけに、主人公がかけがえのない居場所を掴み取っていく喜びには、いやってほど共感できました。

 

何より素晴らしかったのは中盤のダンスフェス。

彼女が堂々と舞う姿が頭の中でくっきり像を結ぶほどでした。

 

畳みかけるように上向く終盤も気持ちよかった!

 

ハチャメチャな披露宴の幸福感。

そして、発表会でのうれしすぎるサプライズ。

 

こんなに心を動かされるなんて!

 

フラメンコがくれる昂ぶりに、感情があふれ出しそう。

 

もう黙ってなんていられない。

世界中に叫びたい。

 

あるぞー!

ここに掘り出し物があるぞーー!

 

『17歳のサリーダ』感想・レビュー

 

脇役たちの魅力も必見(2024/12発売)

 

あなたはこれから、どんな自分にだってなれるのよ。(本文より)

 

誰もが持ってるオモテ裏『やなやつ改造計画』(吉野 万理子)

悩んだときは、とにかく、自分がいいと思う方向に走りなさい、汗をかきなさい。(本文より)


たまに入試に出る作家の明後日発売の本。

最近の著書の中では素材文適性が一番だ


友だちにも微妙な評価をされる中学生が

人気者になる秘訣を探してジタバタする。


前半をまとめるとこんなストーリーだよ。


主人公への遠慮ないツッコミが笑えた~。

そこには親しみもにじみ出てていいんだ。


彼らの組織運営のための情報収集からは

リーダーの仕切り術まで学べてしまうよ。


リアル政治家の助言にも金言が多かった。


感謝するネタをいつも探そうという話は

たぶん自分自身の助けになる気がするな。


興味深かったのは、終盤のスマホ絡みの

事件への組織の枠を超えたムーブメント。


この本はネットリテラシーにも効きそう

 

作問者視点だと生き生きした学校生活を

17章もの細かい区切りで描写する点は

問題文に切り取りやすいかもしれないな。

 

文章難易度は中学入試では普通なレベル。

俺の感想の締めくくりはこんな感じだよ。

 

やなやつ偏差値58といわれる少年ははどうやって認められるのか?

道に悩んだときどう進んだらいい?

上手な感謝の伝え方とは?

こんな問いに少しでも惹かれたらすぐチェック!

みんなに「いい人」と呼ばれる少女の、はずむスクールライフにも注目ですよ~。

 

NetGalleyレビュー

 

3人の関係性にほっこり(1/18発売予定)

 

うーん、わたしは幸せって、将来なるものじゃなくて、今この瞬間も幸せで。こういう一瞬をたくさん作っていけたらいいなって思うの。(本文より、とある殺し文句)

 

紹介作品からの出題(2025年度中学入試の国語出典・随時更新)

例によって、ほとんどだれも見ていない

サイトからひっそりとお知らせするよ~。

 

俺なんかでは一部しか拾えないんだけど、

旧作も含めて紹介本から出た学校のうち、

現時点で判明しているものは以下の通り。

 

全て俺が読んでレビューを書いた作品だ。

 

『八秒で跳べ』(坪田 侑也)

栄東(東大Ⅱ)、聖光学院(帰国)、開智(②)

 

『リカバリー・カバヒコ』(青山 美智子)

栄東(東大特待)、佐久長聖(東京①)

 

『物語を継ぐ者は』(実石 沙枝子)

栄東(A東大)

 

『きらいなあの人』(工藤純子, 蓼内明子, 花里真希, 黒川裕子)

栄東(A難関大)

 

『透明なルール』(佐藤 いつ子)

栄東(B)

 

『エヴァーグリーン・ゲーム』(石井 仁蔵)

浦和明の星女子(①)

 

『アルプス席の母』(早見 和真)

海陽中等(Ⅰ)、愛光

 

『ぼくの色、見つけた!』(志津 栄子)

桃山学院(A)

 

『小田くん家は南部せんべい店』(髙森 美由紀)

桃山学院(B)、岡山(B)

 

『アーセナルにおいでよ』(あさの あつこ)

甲陽学院(2日目)

 

『グリーンデイズ』(高田 由紀子)

岡山白陵

 

『要の台所』(落合 由佳)

福岡大学附属大濠

 

『17シーズン 巡るふたりの五七五』(百舌 涼一)

専修大学松戸(①)

 

『そらのことばが降ってくる: 保健室の俳句会』(高柳 克弘)

流通経済大学付属柏(①)

 

『生きるぼくら』(原田 マハ)

開智(特待B)

 

『金の角持つ子どもたち』(藤岡 陽子)

埼玉栄(③)

 

『ブルーラインから、はるか』(林 けんじろう)

埼玉栄(④)

 

『私たちの世代は』(瀬尾 まいこ)

城北埼玉(①)

 

『あなたの言葉を』(辻村 深月)

須磨学園(①)

 

『きみの鐘が鳴る』(尾崎 英子) 

須磨学園(③)

 

『この夏の星を見る』(辻村 深月)

函館ラ・サール

 

『家族シアター』(辻村 深月)

佐野日大

 

『だれもみえない教室で』(工藤 純子)

佐久長聖(東京②)

 

『アオナギの巣立つ森では』(にしがき ようこ)

片山学園

 

とりあえずは、こんな感じになってるよ。

また判明したらこの記事に追記する予定。

 

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【 主な情報元 】

中学受験鉄人会  様

横浜の塾講師 ガチャえもん 様

日能研のエース akira 様

フリーランスの塾講師 okamoto 様

 

【 お勧めの過去記事 】

【新作限定】国語出典予想ランキング2025

【旧作・準新作限定】レベル別中学受験生向け推薦図書

紹介作品からの出題(2024年度中学入試の国語出典)

涙をチカラに変えて ~或る早稲アカ女子の疾走~

私らしく、いられる場所へ ~或る元サピ女子の再起~

どんなに心が挫けても ~或る公文男子の矜恃~

心に御守りをたずさえて ~或る日能研女子の復活劇~

わたしたちの記念日 ~或るゆる受験女子の誓い~

 

参考:前年バージョンの出題実績の一部

私が調べられたのは氷山の一角なので、出題実績はもっと多いはずです。たとえば、
上記の表では50位は開智未来のみですが、SAPIX調べでは4校で出題とされています。

いまの私は上機嫌『不機嫌な青春』(壁井 ユカコ)

おまえが今絶望しきっているほどには、世の中はそんなに酷くはないから。(本文より)


稀に入試でみる部活小説で有名な著者の

昨年10月に発売されたアンソロジーだ。


青春×SF短編集と謳ってるけど最初の話

『零れたブルースプリング』はSFナシ。


病院に入院中の6年生が飛ばした風船が

数奇な運命を手繰り寄せ未来を変えるよ。


大人になれるかわからない子どもたちの

院内学級の日々に心を奪われまくったな。


これは素材文適性がありそうな話だった。


2話目はちょっと小学生に見せられない

あまりにも生々しい描写があったもんで。

 

2~3話目はSF設定が少し難しいかも。


素材向きじゃないが最終話には参ったわ。

短編『ハスキーボイスでまた呼んで』だ。


対照的な二人のキャラが面白過ぎてよ~、

もう、夢中でページをめくってめくって、

終わったあとにも余韻にひたりまくった。


他にも、苦悩する息子に父親が大丈夫と

思えないかも知れないが、生き延びて

願う話なんかもあってしみじみしたわ~。


文章難易度は例の分類だとやや難レベル

俺の感想の類を以下に少し持ってきたよ。

 

型破りな楽しさが癖になりそう。

最初の話は、思わぬ縁がつなげた入院中の小学6年生と中学3年生の文通。

その微笑ましいのたうちまわりっぷりったら!

ちょっとした秘密が時間とともに膨らんでいくさまに、見事に引っ張り込まれましたよ。

面白さは最終話がまさに神。

ヤンキー女の荒々しい魅力と真面目男の底知れない愛情には、共感の針が振り切れるほど。

二人の幸せを願い、その行く末をいつまでも味わっていたいとさえ思わせてくれましたよ。

SFってジャンル、それほど好きじゃなかったのに。

 

『不機嫌な青春』感想・レビュー

 

胸に響く生き延びてという声(2024/10発売)

 

偉くなんなくても、勉強できなくてもいい。悪いことだけはするんじゃないっていつも言ってるだろ!(本文より)

 

本がわたしを生かしてくれた『わだかまってばかり日記 本と共に』(岩瀬 成子)

ずっと学校の空気になじめないままだった。どうやって折り合いをつければいいかもわからなかった。(本文より)

 

桜蔭などでも出題実績のある大作家の

あと半月ほどで発売される新作エッセイ。

 

著者の幼少時のエピソードを中心にして

折々の心情にマッチする本を紹介するよ。

 

単なる作品紹介より体験談を交えた方が

ず~っと心の奥底に響いてくるもんだな。

 

面白いと思ったのは、物語に自分自身の

気持ちを教えられることがあるって部分。

 

確かに幼いとそういう傾向は強そうだし

大人も無自覚の感情を知る瞬間はあるな。

 

この作品を読むと、どれだけ本が人生を

救い、そして豊かにしてくれるかが解る

 

難易度の面では、やや難にカテゴライズ。

レビューの全文バージョンはこの通りだ。

 

大作家の由来が明るみになる書。

 

私が一番驚いたのは高校文芸部で「書くのが苦痛だったというくだりですね。

書いても書いても「いやこんな言葉じゃなく」とすぐに自ら打ち消す表現へのこだわり。

これは本作で描かれているように、頑固で生きづらさを抱えていた著者の気質と密接にリンクしますが、それゆえに作家への道が開けたのだと私は感じました。

 

父親が遺した「本を読む賢い子になれ」という言葉と、母親の読書にだけは目くじらを立てない独特の向き合い方も、その後の生き方を変えた印象です。

著者自身は誰にもわかってもらえない苦悩をさんざんに抱え続けていた反面、それがあったからこそ、のちのたくさんの読者の共感を呼び覚ますストーリーたちが生まれたのかもしれませんね。

 

鮮明な幼少時の記憶にも驚かされました。

圧倒されるしかない観察眼。

その芽は幼児の頃から際立っていいて、だから普通の感性では書けない気持ちを掬い取れるのだと気づかされましたよ。

 

そして、自身のあゆみに絡めた本の紹介がもたらす相乗効果たるや!

もう、読みたい本が増えすぎて困るほど。

特に破天荒少女が闊歩する筋書きという『こちらあみ子』は即、お取り寄せ。

もう一つ挙げると『夜が明けるまで』。

戦時下の奇矯な反骨ぶりに惹かれました。

『エブリシング・フロウズ』や『夕焼けの国』なども積読リスト入りです。

赤塚不二夫や二宮由紀子の漫画も読んでみたくなりましたよ。

 

この本のおかげで、親として良かれと思ってしていることを今一度振り返りたいと感じました。

解りあえない不幸が残すしこりを十二分に知ることができたので。

一方で、しこりは違った生き方へ導く幸福の種になりうることも学べた気がします。

家族ゆえの苦悩が胸に迫る(1/22発売予定)

 

親がどんな性格で、どんなものの考え方をする人であろうと、そしてどんな生き方をしていようと、その親のそばでしか子供は生きられない。(本文より)