中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

出題されるかもしれない新刊本(2024年8月前後)

来春の入試を一つの区切りと捉えた場合、

今期の作問選書シーズンもそろそろ終幕。

 

殆どの作問者は8月までに選書を終える

ゆえに後に行くほど採用率は下がってく。

 

8月は7~9日に新作がドカドカ来るな。

 

いつも言ってるが、以下は大部分が未読。

出題向きじゃない本も多分混じってるよ

 

8/7発売

『常夏荘物語』(伊吹 有喜)

10歳で邸宅に引き取られた少女の未来。

 

8/8発売 ☆先行レビュー済☆

『みかんファミリー』(椰月 美智子)

中1女子は自由すぎる母に振り回されて。 

 

8/8発売 ☆先行レビュー済☆

『いつか月夜』(寺地 はるな)

迷える青年の真夜中散歩が運命を変える。

 

8/8発売

『全校生徒ラジオ』(有沢 佳映)

過疎の村の中学生たちが過ごす濃密な夏。

 

8/9発売

『春、出逢い』(宮田 愛萌)

崖っぷち文芸部が目指すのは短歌甲子園

 

8/20発売

『灯』(乾 ルカ)

孤独だった高2女子の歩みを照らすもの。 

 

8/21発売

『風花、推してまいる!』(黒川 裕子)

演劇一座との邂逅が少年の心を揺さぶる。 

 

8/22発売 講談社児童文学新人賞大賞

『王様のキャリー』(まひる)

eスポーツにはまる中2男子の友情物語。 

 

9/19頃発売

『くらくらのブックカフェ』(廣嶋玲子、まはら三桃、濱野京子、工藤純子、菅野雪虫

ぐるぐるの図書館シリーズの第四弾登場。

 

9/27頃発売

『銀樹』(森埜 こみち)

情報は全くないが題名から高学年以上?

 

9/27頃発売

『さやかの寿司』(森沢 明夫)

旧態依然とした仕事場で奮闘する物語?

 

8月の注目作の一つ(8/8発売予定)

 

伊吹先生は『なでしこ物語』の最終巻だ。

このシリーズは読書家のファンが多いわ。

おそらく小学生には難しい作品になるよ。

 

椰月先生はかな~り入試素材文によさげ。

春発売ならド頻出になっていただろうな。

 

寺地先生はどちらかというとオトナ向け。

気の毒な境遇の中学生女子も登場するよ。

 

有沢先生は入試では滅多に見ないんだが

あらすじを見た限りではアリっぽい感じ。

 

宮田先生は元・アイドルとのことなので

上手~く書けていないとスルーされそう。

題材の印象に限れば入試素材に最適だが。

 

乾先生は名作になる予感しかしないわ~。

 

黒川先生はユニークな成長物語っぽいよ。 

今作でも楽しませてくれそうな気がする。

 

まひる先生は新鮮さが抜群の題材&展開。 

本好きじゃない子にもすすめたい一冊だ。

 

廣嶋先生など最強タッグの競作短編集は

おそらく9月の最注目作品になるだろう。

 

森埜先生森沢先生は情報が全然ないわ。 

 

今後の新作リリース情報は、判明し次第

この記事にどんどん加筆していく予定だ。 

 

発売済みで今後レビューしたい新作

『うまいダッツ』(坂木 司)

『われは熊楠』(岩井 圭也)

『ステイ!: ぼくとシェパードの5カ月の戦い 』(青谷 真未)

『夏のピルグリム』(高山 環) 

 

【お薦め記事】

中学受験生向け推薦図書(旧作42作品)

紹介作品からの出題(2024年度中学入試の国語出典)

心に御守りをたずさえて ~或る日能研女子の復活劇~

入試問題の難易度を偏差値化する(算数編)

人生、凪いでる場合じゃない!『もしもわたしがあの子なら』(こと さわみ)

発売即重版となったって触れ込みの新作。

ポプラズッコケ文学新人賞大賞受賞作だ。

 

ざっくりとワンフレーズで言っちまうと

普通女子が全然違うキャラの少女2人と

入れかわる体験を通して気づきを得る話。

 

なりたい相手になるって夢があるよな?

 

ま、楽しい読書にピッタリの作品だろう。

本を読まない子にも取っつきやすそうだ。

 

他人のフィルターを通して見える世界や

外見違うことで変わる周囲の反応などは

大人視点でもなかなかに興味深かったよ。

 

子どもならなおさら惹かれるだろうな~

 

以下は俺のレビューの真ん中あたりだわ。

 

チェンジ物ってたまに見ますが、三角パターンは珍しいかも?個性が増える分だけ、得られる経験や教訓も増し増しですね。自身の思わぬ魅力や、他人の気苦労に気づき、素直に生き方を変えていく主人公のことを、心から応援したくなりましたよ。

 

読みやすいので小4でもいけるかも(2024/6発売)

 

好きな人をうちあけあうって、グッと距離が近づくよね。(本文より)

 

これも中学受験小説『息が詰まるようなこの場所で』(外山 薫)

子供に残せる資産を持たないサラリーマン家庭の場合、学歴だけが頼りとなるため、小学校低学年から塾に通わせることが常態化している。(本文より)

 

中学入試の出題候補作品としてではなく

中学受験小説としてすすめたい一冊だよ。

 

タワマン文学とかカテゴライズされるが

描かれる葛藤はみんなにもお馴染みかと。

 

変にドロドロしたものを想像してたけど

むしろ終盤なんてスッキリできる意外さ。

 

親たちの会話にはナルホド感もあるよ~。

 

「わかるー。女子の場合、MARCHの附属には入れたら一丁上がりって感じだよねー。」(本文より)

 

確かに、女子の早慶附属は割と無理ゲー。

 

子供達が通うのはサピックスらしき塾で

校舎トップの子と選抜組に入りたい子の

家族の受験への温度差なども見どころだ。

 

のたうちまわる親達の姿に学びがある

少年の決意にもハッとさせられるかも?

 

俺のレビューを纏めるとはこんな感じに。

 

中学受験に注力する2家族を妻と夫の視点で描いた作品です。

人と比べて煩悶したり、家族のすれ違いに打ちひしがれたり、子どもを支配しようとしたりで、メチャメチャ浅ましくて、泥臭くて、人間臭くて、もう共感しっぱなし。

タワマンだろうが、人生ままならないのはみんな一緒じゃないか!という気になりましたよ。

 

『息が詰まるようなこの場所で』感想・レビュー

 

親として背中を押すべきなのか、止めるべきなのか(2023/1発売)

 

この子たちが、半年後には偏差値という指標で選別され、別々の進路に進むとはとても信じられなかった。(本文より)

 

その強さの源は『明日、晴れますように 続七夜物語』(川上 弘美)

そりゃね。簡単にイジメをやめさせることができるくらいなら、最初からイジメは受けないよね。(本文より)

 

芥川賞選考委員を務めるような大御所で

中学入試ではあまり見ない先生の新作だ。

 

成長過程の真っただなかで葛藤しまくる

小学四年生の少年と少女の日常を描くよ。

 

長編ファンタジーだった作品の続編だが

先にこちらを読んでも大丈夫ではあった。


中盤までは不思議要素はあんまりないよ。

 

もしも入試問題にするならって視点だと

自由に思考が跳ぶ少女視点のパートより

少年視点のパートの方が素材によさげだ

 

素材文適性はゆるやかに上がって行って

いじめ・犬が話題になるあたりが頂点

不思議要素が濃くなる後半に下がる印象。

 

けど今期出典予想では上位になりそうだ

まぁ、これは作品の魅力と関係ない話か。

 

オレが特に惹かれたのは二人の個性だよ。

 

未知の物事を思考と電子辞書で補う少年、

いじめにもどこ吹く風といった体の少女、

二人のゆるやかな関係性の変化に注目だ。

 

以下はオレのレビューの要約バージョン。

 

主人公は4年生の大らかな少年と危うげな少女。

問題をはらみつつ流れていた2人の日常が、夢のような出来事などをきっかけに、うっすら変わる兆しを見せていきます。

人に悪意をぶつけると自分自身が削られるといった、いじめに対する記述には共感しかありませんでした。

正直、後半のファンタジックな展開にとまどいもありましたが、成長とともに揺れる二人の関係性にはグイグイ惹かれましたよ。

特に少年が決然と走り出す場面までの心情がイイ!

10歳の名コンビの行く末、ぜひその可能性に満ちた未来を堪能してみてください。

 

『明日、晴れますように 続七夜物語』感想・レビュー

 

書店の一般文芸カテゴリで平積みされているので、熱心に作問選書をする先生なら気づく(2024/6発売)

 

いやいや。イジメっていうのは、その内容や程度と関係なく、そもそも美しくないところが、だめだ。(本文より)

 

人知れぬ葛藤と涙『わたしは食べるのが下手』(天川 栄人)

友だちに人の悪口を言って欲しくないと

感じる少女の人間性が刺さりましたわ~。

 

児童ペン賞、日本児童文学者協会賞など

この1年ほどで様々な賞の受賞歴がある

天川栄人先生の6月発売の新作2冊目だ。

 

この先生はここ数年で入試に出るように

なってきていて界隈でも知られつつある。

 

今期も先生の本を何冊か紹介しているが、

その中では最も素材文にしやすそうだよ。

 

序盤から少女の苦しい心情で始まるけど、

出会いをきっかけに彼女は変わっていく。

 

心が晴れわたる場面が待ってると信じて

つらい部分の先へと読み進めて欲しいな。

 

間違いなく得るものがあると思うからよ。

 

文章難易度は普通で中学入試標準レベル。

素材文適性がMAXなのは終盤の見せ場。

 

今回は長めのレビューで後押しするッス。

 

冷や水をぶっかけられた!

バッチリ目が覚めましたよ。

 

私自身がまさに、主人公たちを

苦しめる大人たちのような

思い込みを抱いていたので。

 

なんて浅はかで、想像力が

足りてなかったんだろう・・・

 

いま、この本に出逢えたことに

感謝します。

 

主人公は食べることにまつわる

苦痛を抱え込んだ二人の中学一年生。

 

周囲から理解されない悩みに

押しつぶされそうだった彼らが

関わり、刺激し合いながら

学校のルールという大きな壁に

立ち向かう勇気を培っていきます。

 

掴みどころがないようでいて

一本筋が通ってる変人先生の

立ち回りが素晴らしかった!

 

豪胆女子が序盤を疾走させ

従順女子が後半を引っ張るという

ストーリーの吸引力もヤバイ!

 

そして、教室で立ち上がる場面の

気迫と友情のきらめきたるや!

 

食にまつわることに限らず、

周りに目を配り、想像を働かせて

誰かに寄り添う気持ちを

育んでくれそうな一冊ですね。

 

十代向けに書かれた書籍ですが、

すべての教育関係者と親たちにも

力いっぱい薦めたくなりますよ。

 

私は「ちゃんと食べないのは甘え」

などと決めつけることの愚かしさを

この物語のおかげで思い知りました。

 

『わたしは食べるのが下手』感想・レビュー

 

サブテーマに貧困・ジェンダーなども(2024/6発売)

 

食べるのに苦労してるのは、君たちだけじゃないですよ。(本文より)

 

読みやすさが際立つ『すきなあの人』(神戸遥真, 令丈ヒロ子, 少年アヤ, こまつあやこ)

わたしたちはいつだって、“みんな”の輪からはみでないように、気をつけているはずなのに。(本文より)

 

有力作家4人が好きをテーマに競作した

君色パレットシリーズのなかの一冊だよ。

 

2期の3作品の中では最も読みやすそう。

 

面白さって点では令丈先生の作品を推す。

あんなオチ、誰も予想できないっしょ!

 

神戸先生の作品は主人公の後ろめたさが

どう転がっていくかに引き込まれたよ~。

ラストの青々とした気づきも良かったな。

 

こまつ先生の作品は表面からわからない

人間関係の可能性を教えてくれそうだわ。

 

難易度って点ではかなり平易になるかな。

どちらかと言うと女子向けな作風だろう。

 

以下、俺のレビューをちょっと付けとく。

 

想像を超えた自由なアイデアの数々。

同じ「好き」でも、描かれ方でまったく違うカラーになるんですね!

豪華作家陣が心をとらえて離さないお話がギュッと詰まった短編集でした。

 

『すきなあの人』感想・レビュー

 

ちょっと児童文庫寄りでお手軽♪♪(2024/2発売)

 

謎めく舞台の真相は?『六月のぶりぶりぎっちょう』(万城目 学)

『八月の御所グラウンド』が頻出だった

万城目学先生の6月に発売された続編だ。

 

前作は1月の直木賞受賞効果が残るので

引続き要チェックということになりそう。

 

今作は不思議&ミステリ色が濃いぃので

素材文適性っていう面での注目度は低め。

 

ただ、登場人物の魅力はもんのすごいよ。

主人公の高校教師仲間の個性はその一例。

 

歴史こぼれ話にも惹かれるものがあった。

本能寺の変の渦中に黒人男性がいたとか。

 

難易度は難しいに分類されるこの作品に、

俺が書いたレビューの前半パートがこれ。

 

短編『三月の局騒ぎ』は、奇妙なしきたりのある女子寮に住むことになった大学生の人生を変えた経験。

中編の表題作は、歴史好き高校女教師が突如巻き込まれる日本史上最大の謎。

どちらも不思議要素が濃い目ですが、鮮やかな場面転換にいささか面食らう後者より、平安の香りたちこめる前者のほうが好みでした。

 

言葉の煌めきに圧倒される(2024/6発売)

 

何より語り手から伝わる書くことへのよろこびが、記憶の蓋を弾き飛ばす勢いでどっと溢れ返ったのだ。(本文より)