中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

深みも魅力な本郷選書『君が残した贈りもの』(藤本 ひとみ)

どんな人間も、一つのことに専心すれば自分を超えた何者かになれるかも知れない。(本文より)

 

毎年のことだが、出題作を追っていくと

未知のいい本に出会えるから嬉しくなる。

 

これは今年の郷中入試で使われた作品。

 

探偵チームKZシリーズの著者が書いた

重厚で読み応えのある青春小説だったわ。

 

長編だが謎要素を複数織り交ぜてるから

飽きるヒマもないまま一気読みできたよ。

 

本筋とは離れるけど、野球部の前監督の

卒業後を見据えた教育理念も素晴らしい。

車いすの先輩の願いにも気づきがあった。

 

KZシリーズの一つだと後から知ったが

過去作品を未読でも何ら問題なかったな。

 

純粋に楽しみつつ学びも得られましたわ。

読むきっかけをくれた本郷の先生に感謝

 

以下は俺のレビューからの一部抜粋っす。

 

主人公は卓抜した数学男子。

他人に関心の薄かった彼が、高校球界の至宝の遺志に心を動かされて、周囲を巻き込んで奔走するという物語です。

藤本ひとみ先生って、ライトな書き手じゃなかったんですね。

詐欺師ばりの頭脳プレーや、熱量高めの野球シーンも魅力でしたが、それだけではない深みが確かにありました。

 

『君が残した贈りもの』感想・レビュー

 

郷中の選書に拍手!(2023/2発売)

 

闇堕ちしないための妙薬『苺飴には毒がある』(砂村 かいり)

どす黒い感情に巻き込まれたくない。その気持ちを手放したら、人間として何かが終わってしまう気がする。(本文より)

 

たぶん出題実績のない作家の11月の本。

中受界隈では誰も注目してなさそうだわ。


友のハラスメントっていう異色テーマで

入試向けには選びにくそうではあるけど

なかなかどうして、これが面白いんだよ


それでいて、道徳的な良本では扱わない

生きていくうえで必要な知恵が得られる。


頑張ればわかりあえるって価値観なんて

時としてクソの役にも立たないだとかな。


毒をまき散らしまくる幼馴染が邪魔だし

素材文には多分しにくいが強いて使える

かもしれない箇所を以下に挙げてみたよ。


微妙に狙い目っぽいくだり

△中学時代のライバルに遭遇して進路話

△真面目な子が奉仕活動に勧誘してくる

 

あとは文芸部パートがまっとうで良さげ。

 

反面教師としての学びが尊いこの一冊に

俺が書いたレビューの要約版は以下だよ。


この毒は薬。

教科書的な作品からは得られない学びがあると感じました。

主人公は勉強だけがとりえと自覚する高校生。

幼馴染から折に触れ悪意を向けられ続けてきた彼女が、過酷な日々の中で限界を感じ、その心に芽生えた願望をかなえようとします。

どす黒い感情に溺れ、人として大切なものを失くした者を客観視する読書体験は、自分を律する上でも役立ちそうですね。

いわれなき悪意にさらされたことのある人には、特に響く作品だと思いますよ。

 

『苺飴には毒がある』感想・レビュー

 

文芸部の活動を描く部分は清廉(2023/11発売)

 

雨のちハテナ『彼女たちのバックヤード』(森埜 こみち)

しんどいときってさ、言いたくもないことを言ったり、したくもないことをしちゃったりすんの。(本文より)

 

たまに出題される作家の1月の新作だよ。

 

女子中学生3人が主人公の連作短編集で

ちゅうでん大賞のデビュー作まで含めた

過去作品よりも選ばれやすそうな印象だ

 

序盤に友人関係が荒れるが、それが何を

きっかけに変わっていくか見て欲しいな。

 

素材文適性は3章後半の公園での二人の

会話シーンが◎、4・5章が△、6章は

これまた公園が舞台になるあたりが○か。

 

ラストの7章は無印だが最も心に効いた。

 

読み終わった瞬間に、すっげえぞコレは

な~んて吠えて家族に驚かれちまったわ。

 

平易で読みやすく後味も素晴らしい本作。

俺のレビューの後半部分はこんなですわ。

 

清々しい!

序盤の不穏な空気が、お互いを知ることで晴れていく流れがいいわ~。

やはり、相手を思うなら、ここぞという場面では遠慮せず踏み込むことも大事ですね。

それがきっと本当の友だちなのでしょう。

瑞々しく学びもあって、楽しい気持ちにまでなれる”オトクな短編集”だと思います。

 

『彼女たちのバックヤード』感想・レビュー

 

また有力候補作を発見!(2024/1発売)

 

あまりに偉大な長編作品『山ぎは少し明かりて』(辻堂 ゆめ)

個性も、特技も、肩書も、目標もない。だからこそ、これからの自分次第で、何者にだってなれるんじゃないか。自分が何者か、分からない今が貴重なのだ。(本文より)

 

今年の桜蔭作品と肩を並べるような大作

入試では見ない作家の11月発売の本だ。

 

当然、中受界隈での注目度はゼロだろう。

 

読友さん達の推奨が激しいんで読んだが

いっぺんで重厚さに魅せられちまったよ。

 

この本に気づける作問者は稀だろうけど

素材文適性はそれなりにありそうですわ

 

特に注目したいのは主人公の10歳から

23歳あたりまでを描いている三章序盤。

 

素材によさそうな三章序盤のシーン

△足を負傷し少年に助けられる10歳時

△幻想的な蛍の光が舞いおどる10歳時

△冬限りの奉公先から帰郷する17歳時

△男が戦争に取られ農村の生活は過酷に

〇妹を思うがゆえに優しい嘘をついた日

 

戦時中の農村は食べ物があり空襲もなく

生活苦は都会ほどでないと誤解してたが

男衆不在での農業は過酷を極めたんだな。

 

当時の暮らしがどれほど大変だったのか

圧倒的な臨場感をもって伝わって来たよ

 

難易度では紹介作品の中で最高水準だし

これが小学生で読めたら只者じゃないな。

 

味わい深さで群を抜く魅力がある本作品。

俺のレビューの真ん中へんはこんなだよ。

 

三代にわたる女の歩みを描いた大作です。

迷える大学生の孫娘を描く一章で爽やかな気持ちになり、仕事人間の娘を描く二章には切なさと驚きを覚え、彼らの源流となった女性を子供時代から描く三章では全てに圧倒されました。

故郷にこだわる気持ちが、並外れた思い入れが、幼少期からのドラマを通じてしかと伝わってきますね。

だからこそ、村に降ってわいた出来事で人々の心が引き裂かれていく様が驚くほど胸に迫りました。

 

『山ぎは少し明かりて』感想・レビュー

 

東大出身作家の新境地(2023/11発売)

 

新たな知見に満ちた桜蔭選書『百年の藍』(増山 実)

「美しいものが、アメリカの匂いがするというだけで排撃される世の中なんて、狂っています。私は狂っている世の中に合わせるつもりはありません(本文より)

 

今年の桜蔭は大人向け重厚作品だったな。

これはサレジオ学院でも使われていたよ。

 

さっそく読んでみたが小学生は超上級の

読書力がないと序盤で挫折しそうな印象

 

それだけ大正から戦間期の描写は難しい。

大人としては十分に楽しめるんだけどな。

 

六章の男子高校生視点で始まる章などは

舞台が戦後だし割と取っつき易そうかな。

 

桜蔭で使われた箇所とは違うんだけどよ、

三章と六章に素材文適性がありそうだわ。

 

特に三章のずっと憧れてたセーラー服を

初めて着る日の話はそれが学校制服だと

かなりのエモ選書になりそうな感じだよ。

 

六章の喫茶店のシーンでセーラー服への

あこがれが話題になるパートも同様だな。

 

しかし戦時下に制服が統一されてたとは

この作品を読むまで全く知らなかったわ。

 

まぁ、こんなんよりもっと驚きに満ちた

知見に溢れている荘厳な作品なのが本書

 

俺のレビューの一部を以下に引用しとく。

 

血縁を超えた人の繋がりや全力で挑戦することの尊さが、読者の人生にまで働きかけてくる逸品。

色弱で差別された男がジーンズの藍色に魅せられる物語です。彼の溢れんばかりの情熱は、世代を越えて受け継がれ、ついにはある偉業へと繋がっていきます。

時代背景を映した狂気や、震災シーンのリアリティが圧倒的な臨場感で胸に迫りますね。

 

『百年の藍』感想・レビュー

 

彼女の気高さに心を打たれる(2023/6発売)

 

その生き様が魅力的な『あけくれの少女』(佐川 光晴)

「大人には大人の事情がある。多少は気になるじゃろうが、子どもは知らん顔をして、よくあそび、よく学べばいい。そして世の中に放りだされても生きのびていけるだけの力を、どうにかして身につけるんじゃ(本文より父の言葉)

 

有力な出題候補作の紹介が続いていくよ。

 

佐川光晴先生は入試でおなじみだよな?

本作品は昨年12月に発売された新作だ。

 

合理的に考えるクセが身に付いた少女が

心に描く夢に向けて突き進むストーリー。

 

本人はすんごい頑張るのに環境がヤバイ

それでも折れずに生き抜く生き様が凄い

 

夢のために必死に学んだ英語が身を助け

一生懸命な姿が周囲をも惹きつけていく。

 

自学力が幸せにつながる点でもいい話だ。

 

3章はお仕事小説、4章は恋愛小説だし

素材文適性は1・2章のほうが高めだよ。

 

とくに良さそうに感じたのが以下の部分。

 

第一章『尾道スクールデイズ

素晴らしい顧問のいる英語部に入部して

仲間達と朗読劇で活躍・・素材文適性〇

 

第二章『飯田橋・キャンパスライフ』

大学受験の勇気ある挑戦を応援したいと

親友ミサから救いの手・・素材文適性△

 

あとは四章の英語力が活きる場面が△か。

他にもよさそうなパートはあるはずだよ。

 

二章に子供に見せるか迷う部分もあるが

まぁ失敗の教訓としてはアリかもしれん。

 

国語素材としての難易度はやや難に分類。

以下は俺のレビューの前半部分になるよ。

 

将来の夢は英語教師。

小学生のころから家事をこなしながら勉学に励んできたまっすぐな少女が、身につけた力を生かして逆境に対峙し、運命を切り開いていきます。

これは応援したくなる!並外れた努力と合理的な考えで人生を変えようとする主人公の生き様に圧倒されました。

 

『あけくれの少女』感想・レビュー

 

爪の垢を煎じてゴクゴク飲ませたくなる(2023/12発売)

 

私たちにできることを『真実の口』(いとう みく)

終了組のみなさまは大変お疲れ様でした。

 

ゆっくり羽を休め、次に進めるといいな。

 

紹介本からの2024年入試出題実績は、

引き続き各種情報を元に更新していくよ。

 

今回は作成中の来年入試向け出典予想で

いきなり暫定首位になった作品の話題だ。

ちなみに次点は『リカバリーカバヒコ』

 

発売は2ヶ月先の4月9日頃になりそう。

 

ネタバレ回避のために詳しく書けないが

高校生が思わぬ流れで気づきを得てく話。

 

頻出作家が選書ドンピシャの時期に出す

注目テーマの作品としても目が離せない

 

のほほんと生きてる坊ちゃん嬢ちゃんに

見とけや!と言いたくなる内容だったな。

かつ大人にも刺さるストーリーなんだわ。

 

アキラ先生が言うように虐待も描くから

心配なら先に親が目を通すといいだろう。

 

ま、すぐ子どもに与えたくなると思うが。

 

素材文には職員室で先輩と語らう場面や

水辺のシーンの後半、終盤の列車内など

使えそうなパートがザックザクで適性◎

 

受験しない子たちにも強く推せる本作の

出版社に送ったレビュー全文がこれだわ。

 

大人が信用できないとき、子どもに何ができるのか?

差し出された問いが胸に突き刺さりました。

 

主人公は他人への関心が薄い高校一年生。

 

当たり前のように平穏な日々を過ごしてきた彼は、虐待が疑われる幼い少女【ありす】に出会い、中学時代の仲間とともに思わぬ形で関わっていくことになります。

彼らが勇気ある決断の末に目にしたのは、想像を超えた驚きの真実でした。

 

少女の切なすぎる境遇が、繰り返し胸に迫ってきますね。

物語の核となる高校生たちの「暴挙」は、切羽詰まった状況を踏まえれば、決して責められないと感じました。

 

トコトン重厚なストーリー展開なのですが、重いテーマも子どもに親しみやすく描き上げる著者の特色が存分に発揮されてましたよ。

とくに友人兄弟のキャラが良くって、そこかしこで楽しい気持ちにさせてくれました。

 

人との繋がりの機微にグッとくるシーンも多かった!

 

なかでも終盤、ピンチに意外な人物が進み出る場面で滂沱ですよ。

「言ったれ!もっと言ったれ!」って、もう、感情移入しすぎるほどに。

 

加害者の事情が描き込まれている部分は、問題が単純な図式でないことを物語っていて、深~く考えさせられましたね。

やはり、子どもが子どもらしく居られるために、大人としてできることをしないといけないと痛感しきりです。

 

あなたからそう遠くないどこかにも【ありす】は居る。

もしも「おや?」と感じる場面に出くわしたら、あなたならどうしますか?

 

あらゆる年代の読者にそう訴えかけてくるこの作品に、世の中をより良い方向に変えていく力を感じました。

 

負の連鎖をどう断ち切るか・・(4/9発売予定)