中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

2024-01-01から1年間の記事一覧

威風堂々たる『成瀬は信じた道をいく』(宮島 未奈)

やっぱり、あかりの入試が一筋縄でいくわけないのよ。(本文より) 豊島岡女子や栄東・東大特待での出題で 注目度上昇中の作家のシリーズ二作目だ。 本屋大賞候補作の一作目とともに書店の 目立つ位置を占め続けるのは確実だろう。 つまり、作問者が気づかな…

ラストがヤバイほど沁みる『答えは旅の中にある』(小手鞠 るい)

「人は死んでも、人の言葉は死なない」(本文より) たまに入試に出る作家の1月の新作だよ。 詩人でもあるためか言葉選びがいいわ~。 冒頭に挙げたフレーズ以外にも百花繚乱。 日本文化が海外でどう見られているか等 米国在住作家だけに未知の話題も多いよ…

エンタメ万歳!『あいにくあんたのためじゃない』(柚木 麻子)

日本でははっきりした主義主張をすると、必ず大勢の敵を作る。(本文より) この著者は去年、開成で採用があったな。 恵泉女学園を描いた『らんたん』もいい。 さて、本作は極上のエンタメ小説ですわ。 ストレスがたまってたまって限界になり そこから胸のす…

出題されるかもしれない新刊本(2024年3月前後)

3月の新刊も現在判明分では少な目かな。 追加でわかったらこの記事に書き足すよ。 毎度言ってるが、未読の作品が多いんで 出題向きじゃないのも多分混じっている。 2/26発売 『なんでもないあの人』(濱野 京子,林 けんじろう,椰月 美智子,昼田 弥子) 『き…

鳴りひびく警鐘『となりのきみのクライシス』(濱野 京子)

子どもの権利を守るのは、大人の責任です。でも、世の中には、いい大人ばかりではありません。(本文より) 割と入試に出る作家の先月発売の新作だ。 思わぬ気づきをくれる異色作という印象。 児童書でここまで子供達に警鐘を鳴らす 作品ってなかなかないん…

ジャケ買いアリの鷗友選書『お菓子の船』(上野 歩)

いいか、大事なものがあるから、生きる価値が生まれる。おまえたちも生きるに値する大事なものを探せ。(本文より) 鷗友学園での出題を機に出会った良本だ。 お仕事小説なんだが一生懸命な主人公が 力をくれるから幅広い層に薦めたくなる。 海軍時代の祖父…

エネルギー溢れる『オランジェット・ダイアリー』(黒川 裕子)

目標が無いんじゃなくて、目標を作りたくない。かなわないのに、努力するのが怖いだけ。(本文より) 悩める少女の心情がリアルに感じられる たまに出題のある作家の11月の作品だ。 序盤のノリの良さはこの著者の特色だな。 スッと物語に入り込めそうな作…

深みも魅力な本郷選書『君が残した贈りもの』(藤本 ひとみ)

どんな人間も、一つのことに専心すれば自分を超えた何者かになれるかも知れない。(本文より) 毎年のことだが、出題作を追っていくと 未知のいい本に出会えるから嬉しくなる。 これは今年の本郷中入試で使われた作品。 探偵チームKZシリーズの著者が書い…

闇堕ちしないための妙薬『苺飴には毒がある』(砂村 かいり)

どす黒い感情に巻き込まれたくない。その気持ちを手放したら、人間として何かが終わってしまう気がする。(本文より) たぶん出題実績のない作家の11月の本。 中受界隈では誰も注目してなさそうだわ。 友のハラスメントっていう異色テーマで 入試向けには…

雨のちハテナ『彼女たちのバックヤード』(森埜 こみち)

しんどいときってさ、言いたくもないことを言ったり、したくもないことをしちゃったりすんの。(本文より) たまに出題される作家の1月の新作だよ。 女子中学生3人が主人公の連作短編集で ちゅうでん大賞のデビュー作まで含めた 過去作品よりも選ばれやす…

あまりに偉大な長編作品『山ぎは少し明かりて』(辻堂 ゆめ)

個性も、特技も、肩書も、目標もない。だからこそ、これからの自分次第で、何者にだってなれるんじゃないか。自分が何者か、分からない今が貴重なのだ。(本文より) 今年の桜蔭作品と肩を並べるような大作。 入試では見ない作家の11月発売の本だ。 当然、…

新たな知見に満ちた桜蔭選書『百年の藍』(増山 実)

「美しいものが、アメリカの匂いがするというだけで排撃される世の中なんて、狂っています。私は狂っている世の中に合わせるつもりはありません」(本文より) 今年の桜蔭は大人向け重厚作品だったな。 これはサレジオ学院でも使われていたよ。 さっそく読ん…

その生き様が魅力的な『あけくれの少女』(佐川 光晴)

「大人には大人の事情がある。多少は気になるじゃろうが、子どもは知らん顔をして、よくあそび、よく学べばいい。そして世の中に放りだされても生きのびていけるだけの力を、どうにかして身につけるんじゃ」(本文より父の言葉) 有力な出題候補作の紹介が続…

私たちにできることを『真実の口』(いとう みく)

受験終了組の皆様は大変お疲れ様でした。 ゆっくり羽を休め、次に進めるといいな。 紹介本からの2024年入試出題実績は、 引き続き各種情報を元に更新していくよ。 今回は作成中の来年入試向け出典予想で いきなり暫定首位になった作品の話題だ。 ちなみ…

出題されるかもしれない新刊本(2024年2月前後)

2月の新刊はちょっと少な目のようだね。 追加で判明したらこの記事に書き足すよ。 1/30発売 『こんな部活あります──ココロの花──華道部&サッカー部』(八束 澄子) 入学式で運命的な経験をする少年と少女。 2/1発売 『すきなあの人』(神戸 遥真,令丈ヒロ…

おちゃらけドタバタ劇とは違う『キオクがない!』(いとう みく)

人ってつくづく、経験や体験の上に成り立っていくものなんだと思う。それを失った状態の僕は、僕自身の軸がどこにあるのかがわからない。(本文より) 入試頻出作家が昨年11月に出した新作。 この先生はシリアス作品がよく選ばれる。 本作はエンタメ色が強…

ジャイアンのかなしみ『神さまのいうとおり』(谷 瑞恵)

みんな、いろんな壁にぶつかってきているのだから、人並なんて、どこにもない。(本文より) 子どもの受験のときに栄東で出たもんで 慌てて買った本だが当時は読めなかった。 本命の入試まであとわずかだと思ったら 気が急いて文章が頭に入ってこなくてよ、 …

切なさ、ここに極まれり『さよならミイラ男』(福田 隆浩)

どうしてみんなと同じことができないんだろう。小さいころは、そう何度も思った。(本文より) 入試ではあまり見ない作家の来月の新作。 この先生の本は優良図書が多いんだけど あんまし使われない理由はなんだろうね。 野間児童文芸賞だった前作なども含め…

さすがの受賞作『夜に星を放つ』(窪 美澄)

つらい思いをするのはいつも子どもだけれどね。(本文より) 2022年に発売された直木賞受賞作だ。 今更ながらに読んでみて見事にやられた。 傷ついた人々の話だが読むと救われるよ。 実にいい短編がたっぷり詰まってるから。 とくに鉄人会予想『星の随に…

戦火のもと、不可能に挑む『タスキ彼方』(額賀 澪)

自分のことを、小説の主人公だと思い込むんです。すると不思議なもので、自分の意識と体が切り離される感覚がして、緊張せずに言いたいことがすらすら出てくるんですよ。(本文より) たまに入試に出る作家の12月発売の本。 新旧両方の箱根駅伝の魅力を味…

学びをトコトン楽しんで『線は、僕を描く』(砥上 裕將)

成功を目指しながら、数々の失敗を大胆に繰り返すこと。そして、学ぶこと。学ぶことを楽しむこと。失敗からしか学べないことは多いからね。(本文より) わりと入試で出ている2019年の旧作。 旧作の推奨リストに入れなかった理由は 映像化され回避される…

驚きが止まらない『ずっとそこにいるつもり?』(古矢永 塔子)

陽キャにばっか愛想笑いして、自分がターゲットにされないように振る舞うだけで精一杯なんですよ。(最終話『まだあの場所にいる』の本文より) 入試では見ない作家の10月の新作だよ。 短編集で大人視点の話が多くて子供には 共感しづらいだろうな~とは思…

みなぎる活力『風が吹いたり、花が散ったり』(朝倉 宏景)

なんで、俺たちはもっと器用に生きられないのだろう?(本文より) 『あめつちのうた』が頻出な作家の旧作。 文庫化を機に読んでみたが大当たりだわ。 過ちを犯した少年が負い目を隠しながら 目の不自由な少女のサポート役になって マラソン走破の手助けをす…

短歌少女が駆け抜ける『わたしたちの歌をうたって』(堀 直子)

稀に出題される作家の2022年の作品。 小4あたりからいけそうなレベル感かな。 つまり紹介本の中ではかなり平易な部類。 オレは軽い気持ちで読み始めたんだけど、 主人公が自分の殻を破る場面で涙目だよ。 泣いてるのがバレないよう必死で堪えた。 これ…

知識欲までそそられる『はじまりは一冊の本!』(濱野 京子)

ちがうタイプだからいいのかな、とも思うの。自分には考えつかないようなことを言ったりするから、新鮮っていうか。(本文より) たまに入試に出る作家の昨年9月の新作。 この先生は明日発売の本にも要注目だよ。 今回の紹介する作品の主人公は小6男子。 …

紹介作品からの出題(2024年度中学入試の国語出典・随時更新)

相変わらず笑っちゃう程アクセスが無い 寂れ切ったサイトからお知らせしますよ。 俺の情報網では一部しか拾えないんだが、 旧作も含めて紹介本から出た学校のうち、 現時点で判明しているものは以下の通り。 『きみの話を聞かせてくれよ』(村上 雅郁) 駒場…

決意を胸に『優等生サバイバル: 青春を生き抜く13の法則』(ファン・ヨンミ)

プレッシャーもかけすぎると逆効果だよな。大人はそういうところをわかってない。(本文より) 海外作品はそれほど頻出にはならないが 去年の『5番レーン』みたいに複数校で 出題された韓国文学なんかもあるからな。 今回紹介するのは昨年7月に発売された …

可能性を無駄にしないために『毒をもって僕らは』(冬野 岬)

昨年3月発売のポプラ社小説新人賞作品。 少年視点の物語だけど、中学受験界隈で 話題になっていないのはダークさゆえか。 いじめの凄惨さなんかちょっと引くもん。 主人公の心情の危うさも教科書的でなく そこが読者を惹きこむ要因でもありそう。 毒が強く…

少年の本気度『アオナギの巣立つ森では』(にしがき ようこ)

身近にある物を見直すきっかけになる本。 たまに出題される作家の10月の作品だ。 素材文適性はそれなりにありそうな印象。 文章難易度は5年生でも読める水準だよ。 オオタカや刀鍛冶がいる土地が舞台ゆえ 非日常な暮らしぶりが新鮮に映るだろう。 自然界…

弓の素晴らしさも伝わってくる『たまごを持つように』(まはら 三桃)

一歩一歩しか歩けないのなら、長い間歩いていればいい。(本文より) 2009年に出た優先度Aランクの旧作。 これも長年にわたり愛されてきた小説だ。 努力し続けることの大切さを訴えかける 青春小説なんであらゆる層に薦めたいよ。 弓道を扱うけど斜面と…