わたしは、自分の家のややこしい事情を、友だちや先生には知られたくない。(本文より)
受賞歴豊富だけど入試ではあまり見ない
ベテラン作家の4月に出たばかりの作品。
中学受験界隈での注目度は低そうだけど
これは稀に見るエモさのストーリーだよ。
しかも素材文適性が中盤から急上昇する。
この本に作問者が気づけるか未知数だが
教室、駅周辺、屋上、植物園など各所で
先生方が惹かれるであろう部分があった。
具体的には5、7~10、13~14章。
特に少し荒れるシーンが描かれる9章や
14章は素材文適性がMAXだった印象。
8・10・13章もかなり使えそうだし
珍しいほど問題文にしやすい作品だろう。
文章は易しいんだが心情を理解するには
高い共感力や想像力が求められそうだよ。
今回は長めのレビューを付けときやした。
主人公は大人の都合で分かたれた姉妹の姉。
六年生になった彼女が、大切な人の願いを叶えるためにみずからの殻を破り、価値ある一歩を踏み出していく物語です。
姉妹の心情に胸を打たれる瞬間が幾度もありました。
特に妹の言動ですね。
彼女が本心を吐露する場面の切なさは、他に類を見ないものでした。
主人公のさまざまな気づきにも要注目です。
前半では両親の不甲斐なさにイライラしましたが、その分だけ、主人公たちの優しさや切実さが響きましたよ。
途中からはもう、この子は、この子たちは応援したい、幸せになってほしいって気持ちでいっぱいに。
振り回されるばかりだった子どもたちの切なる思いと行動が、大人たちの心に響いていくさまからは、先行きへのほのかな希望を感じられた気がします。
後味さわやかなココロの清涼剤。
大人にも激推ししたくなる逸品。
子どもたちにとっても、この本との出会いは、大変な思いをしている当事者だけが知る気持ちに物語で寄り添える貴重な体験になると思います。
家族だって友だちだって、みんなちょっとずつ変なんだよ。完成形の人なんて、たぶんあんまりいないんだから。(本文より)