それぞれが自分の場所で、受験生として全力を尽くそうと約束していた。(『私が鳥のときは』の本文より)
この作品がデビュー作っていうことだし
中学受験界隈では多分ノーマークだろう。
受賞作『私が鳥のときは』が3割に対し、
書き下ろし長編がこの本の7割を占める。
意外だったのは受賞作じゃない方の話も
同等かそれ以上に素晴らしかったところ。
表題作は中3女子の受験話がメインだが
『アイムアハッピー・フォーエバー』は
中1女子の部活絡みの話が中心になるよ。
誤植みたいな題名の理由は読めばわかる。
探求心溢れる作問者でないとこの作品に
気づけないと思うけど素材文適性は高い。
以下は問題文によさそうな場面の一例だ。
『私が鳥のときは』
〇主人公が自己嫌悪に陥ってしまう場面
△デキる友人の誘いで学校見学に行く日
△勉強の息抜きのつもりがまさかの事態
『アイムアハッピー・フォーエバー』
〇初めてのテニスコートに浮き立った夏
◎新組織立ち上げ計画の楽しい話し合い
△前例なきチャレンジを先生に打診する
◎部長の意外な素顔を知り、いざ勝負へ
ま、使える箇所はまだまだあると思うよ。
青春真っ盛りの夏を描く後者は特に多い。
頻出作家の王道物に引けを取らない本作。
俺の全文レビューはこんな感じになった。
中3女子の家に訳アリの重病人が転がり込んでくる表題作に、その女性の中1時代を描いた長編を加えた一冊です。
文学賞を受賞した前者ではその生き様に揺さぶられましたが、私には後者のどこまでも伸びていきそうなキラキラ感のほうが刺さりましたね。
なにしろ、つらくても、行き詰まっても、知恵を出し合い運命を切り開いていこうとする中学生たちの躍動感が凄い!
粋な老婆や、意外性ある部長、温かく見守る先生なども盛り上げてくれるし、主人公も魅力十分。
これは読者になみなみと勇気を注いでくれる作品ですよ。
2023年の締めくくりにこんな素敵な本に出逢えるなんて!