中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

許された気になれる『不完全宣言』(林 けんじろう)

よぉし、もう五月五日を「こどもの日」なんて呼ばせないぞ。(本文より)

 

たまに入試に出る作家の発売間もない本。


テンション高めなドジっ娘の東京行脚が

軽快なノリで描かれたストーリーだよ~。


やっぱしこの先生は旅の描写に滅法強い

惹かれすぎて現地に足を運びたくなるな。

 

子供の成長物語って点でも魅力十分だよ。

 

広い心を手に入れる主人公から得られる

学びはきっと心を軽くしてくれるだろう。

 

弱さと向き合う力までくれそうな一冊だ

 

大人でも許された気分になっちまったし

この本ってばどんだけ間口が広いんだよ。

 

痛快そのものの本作の難易度は普通かな。

以下のレビューで魅力が伝わればナイス。 

 

テンポよく弾むユーモアが凄い!

 

主人公は父子家庭の六年生。

親に幻滅して大事な約束をすっぽかした彼女が、親友の失せ物さがしに乗っかり、不慣れな大都会で思いがけない体験を重ねます。

 

湯水のように笑いが湧いてくる作品ですね。

心の声もセリフの応酬も漫才みたいに楽しいんです!

 

ナニカへの相方の振る舞い、ウザい少年の活躍、アノ人の絶妙な間の悪さなど、面白要素が出るわ出るわ。

 

そして、なんだかんだと言っても、友達を笑顔にしたい主人公はやっぱり魅力的。

“謝り大臣”のような親に対する態度にも、ほどよく救いがありましたよ。

 

フルスロットルの友情が癒しをくれるいい話。

これはぜひ、肩の力を抜いて満喫しましょう。

 

『不完全宣言』感想・レビュー

 

掛け合いのスピード感!(7/1発売)

 

あのね、怒ってはいないよ。うらぎり行為を断罪したいだけ。(本文より)

 

鮮やかなまでの解像度『ぼくたちの卒業写真』(天川 栄人)

そう、僕の中学生活は、何の問題もなく、うまくいっていた。この日、彼に声を掛かけられるまでは。(本文より、ボッチ男子の心情)

 

今年の読書感想文コンクール課題図書に

著書が採用され注目度上昇中の天川先生

 

そんな作家の6月に発売された新作だが

今作は発売早々から話題を呼んでいるな。

 

陰キャそのものだった少年がらしくなく

なっていくストーリーにグッとくる上に

問題文にも抜群に使いやすいって評判だ

 

確かに素材適性は高く2章後半のように

出題箇所がかぶりそうな名シーンもある。

 

問題に使えそうな箇所の例

二章中盤〇車椅子への思い込みに冷や水

二章終盤◎考えを変えた少年が躍動する

三章中盤△カメラを向ける重みに気づく

三章終盤〇波乱が生むまさかのショット

 

ま、そんな話はさておき面白さも満杯だ。

 

会話の弾みっぷりとか楽しすぎるんだわ。

特に女子のバチバチあたりは必見だから。

 

ここは考えさせられる場面でもあるよ~。

 

読むことで心の機微に敏感になれそうな

この作品は中学入試では標準的な難易度

 

以下、レビューのロングバージョンだよ。

 

ラストの心地よい騒がしさに、幸せ気分を分けてもらえました。

解像度バッチリの青春小説ですね。

 

主人公は暗すぎ蔵木と呼ばれる中学三年生。

カメラマン志望だけど人物写真の苦手な彼が、陽キャ男子の発案で型破りな卒アル作りに巻き込まれます。

 

迫力ある場面がくっきり像を結ぶ描写力!

いかにみんなの個性を引き出すか、突きつめていく中で、少年が気づきを得ていくさまが心地よいですね。

 

物語を通じて、他人はもちろんのこと、自分自身に対しても決めつけは戒めないといけないと痛感しましたよ。

困ったときに誰かに話せることや、困っている誰かの話を聞けることが、どれだけ素晴らしく、ありがたいことかも身に染みました。

 

この作品に触れれば、人の気持ちを想像したり、寄り添ったりできる優しさが、自然とはぐくまれるかもしれません。

 

成長機会をくれる、あらゆる世代に届いてほしい物語です。

 

『ぼくたちの卒業写真』感想・レビュー

 

スイッチが入ったときの主人公に注目!(2025/6発売)

 

あ、どうぞそのまま不毛なケンカを続けてください。(本文より)

 

師の教えを胸に『天使と歌う』(愛野 史香)

世界はまだまだ可能性を秘めた音楽にあふれている。(本文より)

 

昨年デビューした作家の来月出る新刊だ。

 

前作この先生、美術に強いのかと思い、

今作では音楽にも強いのか!とたまげた。

 

心にフタをしていたチェロ奏者の少年が

自分を解き放っていく様にグッとくるよ。

 

何より引き込まれたのは尖がった個性が

激突しまくるコンクールの圧倒的な熱気。

 

鮮やかなまでにドラマチックな展開だし

音楽に疎くってもかな~りに楽しめるよ。

 

欧州でいまも残る国家間の遺恨のような

普通に生きてると見えない事情なんかも

描き込まれていて深みも味わえる逸品だ。

 

素材文適性は『車椅子のヒーロー』の章。

進路に迷う高校生の葛藤が問題に良さげ。

 

面白さは後半の章にかけて爆上がりだよ。

 

難易度はいつもの分類でいえば難しい

すぐに熱中できるんじゃないかと思うな。

 

以下、吐き出さずにいられない俺の感動。

 

前作で美術を鮮やかに描き上げた著者が、今度は音楽を舞台に奏で尽くします。

 

主人公は家の事情で音楽の道を断念しかけているチェロ奏者の少年。

日本で隠遁する世界的巨匠に師事し、ひそやかに腕を磨いてきた彼が人生のターニングポイントに立ち、驚きの経験を重ねていきます。

 

葛藤のあまり内向きになっているキャラが多めだったせいか、例の姉妹の陽気に救われた気がします。

そんな彼女たちの歩みも一筋縄ではありませんでしたね。

 

こういった人物描写の細やかさには、強烈なまでに魅了されましたよ。

 

絵にかいたような憎まれ役が見せるギャップも刺さりすぎ!

もう、途中まで大っ嫌いだったのに。

 

そして、終盤の主人公の熱量にはものの見事に持って行かれましたよ。

 

経験を糧にして未来を切り拓いてゆくさまには、思わずため息がもれました。

ふぅ、よかった~、と。

 

忘れられたり、遅れて来た才能に光をという理念には120%共感ですね。

これは著者の心からの願望でもあるように感じましたよ。

 

音楽が呼び覚ます感動。

繋がり広がってゆく世界。

 

この作品とともに時間を忘れ味わってみませんか?

 

音楽で世界が広がる、つながる(7/15発売予定)

 

自分の可能性を模索してる姿を見せ続けることで、それがいつか個性だと言われるようになる。(本文より)

 

究極すぎる独創性『パズルと天気』(伊坂 幸太郎)

『逆ソクラテス』が中学入試頻出という

伊坂先生の先月発売されたアンソロジー

 

驚きと楽しさが徹底して追及されてるわ。

読めば唖然とする話なんかもあると思う。


俺が特に気に入ったのは最初と最後の話。


これは連作的に少し繋がってるんだけど

特にお天気にこだわる青年を描いた話が

読んでいてうれしくなる展開に酔えたよ。


姉の歴代彼氏の逸話は不思議で楽しいわ。

妙に刺さるエールが心に効きまくるな~。


作家の創作力を見せつけられる一冊かと。

 

難易度はやや難で読む順番は完全に自由。

参考までにマイレビューも付けときやす。

 

奇想天外!

昔話が混ざる話など、バラエティ豊かな短編の中には面白さと感動が同居するエピソードも。

 

イチオシは『Weather』。

モテ男の友人の編み出した苦肉の策が笑える一方で、不穏な空気が漂う式で起こる衝撃にはガツンとやられた!

 

楽しさでは『パズル』も。

特別感をにじませるキャラの自信満々の推理に仕込まれたワナに、すっかり嵌まりましたよ。

これは予想できなかった!

 

『透明ポーラーベア』は炸裂しまくるホットな祝福の伏線が私に歓喜の渦をくれました。

 

この異次元すぎる発想力、一体なんなの~?

 

『パズルと天気』感想・レビュー

 

ぶっ飛んだ発想に酔える(2025/5発売)

 

織姫と彦星の話は純愛の話じゃないぞ。結婚した途端、働かなくなった駄目夫婦が、叱られて無理やり別居させられただけだ。(本文より)

 

心のままに生きられたら『若松一中グリークラブ 気になるあの子はトップテノール』(神戸 遥真)

出版ペースの早い作家の1月の作品だよ。

この先生ってばギャップを描くのが得意


私立の中高一貫校の一年男子の本人すら

驚き戸惑う気持ちをしっとり描いた本だ。


タイトル通り合唱モノで定番曲とともに

進むパートでは頭のなかで歌が響いたよ。


そんだけ入り込みやすいストーリーだわ。


新入生がイチからクラブを立ち上げてく

なかで起こる様々なイベントもたのしい。

何より最後のステージが素晴らしかった。


吃音パートはもうちょっと見たかったな。

 

難易度としては平易というカテゴライズ。

オレのレビューのさわりはこんな感じだ。

 

多様性もここまで来たか!

 

主人公は窮屈に生きてきた中学生。

入学早々運命的な出会いをした彼が、誘われ、逡巡した末に合唱クラブの立ち上げにかかわることになります。

 

初めて芽生える感情、驚愕の事実、重荷からの解放と続くストーリーにすっかり見入ってしまいました。

歌に苦手意識のある少年の変わってゆく様が楽しげで、ページがどんどん進んだんです。

 

『若松一中グリークラブ 気になるあの子はトップテノール』感想・レビュー

 

読み始めてから表紙を二度見するかも(2025/1発売)

 

歌ってすごいんだなって実感する。年齢も性別も飛びこえて、あんなふうに一つになれてしまう。(本文より)

 

ターニングポイントの真ん中に『青い絵本』(桜木 紫乃)

勉強を重ねれば父の元から離れられることに気づいてからは、試験に受かる勉強しかしなかった。(表題作の本文より、揺れる13歳の心情)

 

昨年の灘中入試でエッセイが使用された

作家の2024年11月に出た短編集だ。

 

大人の女性たちの視点で人生の後半戦を

描く中に死のにおいが漂う話が多めだよ。

 

つまりキラキラ明るい系ではないんだが

せつなさの中にぬくもりを感じられたわ。

 

5篇中3篇が本づくりに関わる人の話で

それらは際立って解像度が高かった印象。

 

推敲場面では、残りたがる一行は危険で、

それこそが余計だったりする、のような

作家のリアルな試行錯誤が描かれていた。

 

いつもの4分類でいえば難易度は難しい

味のある作品に漬かりたい人にお薦めだ。

 

絵本の魅力を再発見させてくれる作品に

俺が書いたレビューの一部を紹介するよ。

 

ささやかな幸せがゆったりと心を満たしてくれる作品集。

人生の岐路に立つ女性たちが、絵本との関わりをきっかけに、ときにほんのり、ときに激しく揺り動かされていきます。

 

表題作のインパクトが最強ですね。

大切な人の魂を込めた最後の絵本作りにかかわる主人公だけでなく、出版社の人々の仕事ぶりがとんでもないんです!

 

『青い絵本』感想・レビュー

 

表題作に作家と出版社の理想の関係を見た(2024/11発売)

 

人の心の在処など深追いしたこともないはずが、どうしたことだろう。(本文より)

 

憧れがフワリ『さくら前線急上昇! 高校受験で大逆転!?』(橋長 あこ)

その代わり、最後の一秒まで絶対にあきらめないでください。(本文より)

 

今月発売された新人作家の児童書ですわ。

思わず笑みがこぼれる受験ストーリーだ

 

これといった取りえがないと感じていた

14歳がとあるショックを機に奮起する。

 

ひと言で表現するとこれが取っ掛かりだ。

 

日常でも非日常でもキラっと光る友情が

ストーリーの随所に散りばめられてたな。

 

やっぱし持つべきものは友だとしみじみ。

 

勉強は何も持っていない人が特別になる

ための一つの近道であるとも実感できた。

 

何が主人公のモチベを上げるか要注目だ。

 

題材は高校受験なんだがとても読み易く

展開の面でもターゲットは高学年かな?

 

一応マイレビューの前のほうを付けとく。

 

自分を“冴えない子”だと思ってる中学生が、みるみる見違えていくストーリー。

勉強嫌いの少女が、悔しさをバネにして受験にのめり込んでいくさまが微笑みを誘いますね。

絵にかいたようなカタキ役たちもどこか憎めなくって楽しい!

まさかの人助けもあり、全編を通じて満開に咲き乱れるいい人ワールド。

癒されすぎて、すっかり毒気を抜かれちゃったヨ。

 

『さくら前線急上昇! 高校受験で大逆転!?』感想・レビュー

 

勉強が未来をひらく(2025/6発売)

 

怖くていいんです。逃げ出したくてもいいんです。みんな、そうなんです。(本文より)