そのころの那津はまだ人形ではなく、生きて、動き、料理をつくり、洗濯物をたたみ、皿洗いをしていた。(本文より)
いまの自分を大切に、と訴えかけてくる
直近の芥川賞候補作の一つで未刊行作品。
今回は文芸誌を取り寄せて読んでみたよ。
人ならざる何かが父子の暮らしを見つめ
続ける中で思わぬ現実が浮き彫りになる。
ワンフレーズでいうとこんなストーリー。
発達障害の子どもを抱える家族の生活や
療育をめぐる描写はリアリティ抜群だわ。
いいことを言うカウンセラーだけでなく
絶妙に暑苦しい先生なんかも面白かった。
圧巻は父親の掴みどころのなさの移ろい。
少年の育ちっぷりにはちょっと癒された。
素材文適性については野球パートに微量。
まぁ、あんま問題文向きじゃない印象だ。
難易度はガチで難しい部類に入るだろう。
以下、いつも通りマイレビューをドドン。
感情の薄い個性的な男の生き様を「何か」見守る異色のストーリー。
子どもにまつわる問題と思われた違和感が、やがて周囲を取り囲む病巣のように広がってゆくさまに震えました。
読んでいて、療育を隣室のモニターで見守った経験がまざまざと蘇ってきましたね。
それだけに、序盤では親の戸惑い不安、疑問などに共感できる場面も多かったです。
やがて展開に不穏さが滲んできくると、荒れるストーリーにますます引きこまれました。
家族の根幹のところで「え?どういうこと?」と感じる部分があるのですが、そのわからなさこそが男の闇と病み。
意志を強く持ち自分の人生を生きることの大切さが沁みる物語でした。

とにかく、情緒通級に通う子たちは、ただでさえ、周りの社会からの拒絶のメッセージを常に受け取り続けているので、安心できる場所が必要なんです。(本文より)