中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

心がほぐれてゆく一冊『学校に行かない僕の学校』(尾崎 英子)

今の学校は、考える前に与えすぎてるんやと、俺は思う。(本文より)

 

『きみの鐘が鳴る』で中学受験を描いた

著者の約1ヶ月後に発売される新作だよ。

 

これは多様な価値観を体感させてくれる。

今が辛い子どもたちに届いて欲しい本だ

 

国語素材文としてもかなり面白いだろう。

 

特に名門校に入り壁にぶつかった少女と

主人公の少年との会話シーンが使えそう。

 

タイトル的に扱いづらいかも知れないが

よさげな場面が複数あり素材適性は高め。

 

きみ鐘も複数校で出てた要注目だろう。

 

文章レベルはきみ鐘よりちょっと難しい。

まぁ、出題標準レベルといったところだ。

 

以下、俺の長文レビューを付けておくよ。

 

主人公は重いトラウマを抱えた中学生。

 

過去に縛られていた彼が、せせらぎの響く森の学校で、心に枷を負った仲間と絆を深め合い、未来に連なる気づきを得ていきます。

 

自己否定の極みにいた少年や、取り付く島もなかった少女の心がほぐれていくストーリーの鮮やかなこと!

彼らの成長の決め手は、ほどよい距離感の大人であり、自然の中ゆったり流れる時間であり、そして何より解りあえる相棒たちですね。

 

寮のあるフリースクールでのそうそう見られない友情のゆくえには、ぜひとも注目して欲しいです。

 

考える力のみならず、生きる力を身につけさせようとする先生方の理念も素晴らしかった!

ときには逃げてもいいんだよという言葉や、伸びるよりも大事なことがあると訴えるくだりには、私もハッとさせられました。

心に沁みるイデアの数々はきっと多くの子どもたちの救いになりますね。

 

さらに、鮮やかで季節感あふれる描写もたっぷり満喫できました!

とりわけ夏ですよ、夏。

緑の木々に囲まれた川面を日差しがキラリ反射するさまなど、思い浮かべるだけでまぶしさを感じるほど。

 

終盤、スクールで最高学年になった少年が紡ぎだす文章がまたいいんです!

このくだりには「迷える子ども達に居場所を」という著者の祈りが丹精に込められていた気がします。

 

生身の中学生を追い詰める悩みや葛藤が、苦しみ抜いた少年少女を通じてどこまでも響いてくる本作は、親世代としても学びの多い一冊でした。

 

これは間違いなく多くの子どもたちの共感を呼ぶことになるでしょうね。

 

大切な言葉を胸に歩んでゆく(5/7頃発売予定)

 

合不合判定テストの国語出典(続 模試に出る作品は当てられる)

去年の合不合判定テストの物語文だけど

俺がレビューした作品からしか出てない

 

一昨年はここまで当たってなんかないし

たまたまだが、まぁ数撃ちゃあたるわな。

 

 2023/04/09実施 
合不合判定テスト 第一回

『給食アンサンブル2』(如月 かずさ)

(2022/10/12発売)
(2022/12/10投稿)

 

 2023/07/09実施 
合不合判定テスト 第二回

『神無島のウラ』(あさの あつこ)

(2023/02/24発売)
(2023/04/01投稿)

 

 2023/09/10実施 
合不合判定テスト 第三回

『おくることば』(重松 清)

(2023/06/26発売)
(2023/08/08投稿)

 

 2023/10/08実施 
合不合判定テスト 第四回

『ぼくはうそをついた』(西村 すぐり)

(2023/06/07発売)
(2023/06/03投稿)※先行レビュー

 

 2023/11/05実施
合不合判定テスト 第五回

『この夏の星を見る』(辻村 深月)

(2023/06/30発売)
(2023/07/02投稿)

サピックスオープン2023/12/03でも出題

 

 2023/12/10実施
合不合判定テスト 第六回

『かたばみ』(木内 昇)

(2023/08/04発売)
(2023/10/21投稿)

 

だいたい発売3~6ヶ月の本がきてるが

センスあふれるめっちゃいい選書だわ~。

 

ま、模試で既読の作品が出てしまうのは

実力を図るうえでは好ましくないゆえに

無理して出そうな本を追う必要はないよ。

 

【お勧めの過去記事】

模試に出る作品は当てられる

志望校で出る作品は当てられない

入試問題の難易度を偏差値化する(算数編)

涙をチカラに変えて ~或る早稲アカ女子の疾走~

わたしたちの記念日 ~或るゆる受験女子の誓い~

 

いよいよ最大規模の模試のシーズンが到来

 

荒波を超えて『遠い町できみは』(高遠 ちとせ)

誰かを責めるんじゃない。誰かに誇れるように胸を張ろう。(本文より)

 

3月14日に出たポプラ社小説新人賞の

特別賞受賞作ってのが今回の紹介本だよ。

 

海辺の田舎町を舞台にして3人の男女が

小5から中学時代を駆け抜けていく話だ。

 

過酷な運命にあらがう少年少女の成長と

友情のきらめきってのがまぶしかったよ。

 

ちょっと児童虐待を描く瞬間があるので

気がかりなら親が先に見ておくのもアリ

 

少女の波乗りに少年が圧倒される部分等

素材文適性△な箇所もチラホラな印象だ。

 

レベル感としてはやや難といったところ。

俺のレビューの一部を以下に付けとくよ。

 

主人公は都会から来た少年と、地域のはみだし者の少年少女。

大人に振り回されてきた彼らが、ともにかけがえのないものを見つけ、身を寄せ合いながら世間の荒波にあらがっていきます。

サーフィンがつなぐ友情や意外過ぎるトラブルの勃発など、メチャメチャ惹きつけられるストーリー展開でした。

 

『遠い町できみは』|感想・レビュー

 

構想力が凄い(2024/3発売)

 

しあわせを願う意味『風に立つ』(柚月 裕子)

恵まれた人生と充実した人生って同じじゃないのかもな。(本文より)

 

ミステリや推理モノで有名な作家の新作。

 

入試でほぼ見ない先生なんだがこの本は

ちょっと使える要素が混じってるんだな。


地域一の進学校に入学したものの問題を

起こし南部鉄器工房に流れてきた少年の

更生に向き合う人びとを描いた小説だよ。


主人公は38歳の職人、少年は16歳だ。

 

問題少年に関わりたくないと思っていた

主人公がどう変わっていくかに注目だわ。

 

問題を起こして高校を追い出された彼を

追い詰めたものの正体ってのが驚愕モノ。


ボタンのかけ違いってせつないもんだな。


ま、これは子どもより親が読むべきかも。


書店では一般文芸コーナーにあるんだが

平積みになっていて存在感が抜群だから

たぶん作問者も気づくんじゃないかな?

 

難易度では難しいに分類されるこの作品。

俺のレビューの感想パートはこんな感じ。

 

どう生きるべきなのか?

親として勧めたい道筋は確かにありましたが、この作品に触れ、はたと立ち止まりました。

やはり、何が正しいのかなんてわからない。

けれど、もし進む道に迷ったら子どもの心からの幸せを判断基準にすれば、とんでもない間違えにはならないのではないかと感じるようになりました。

大切なのは頭ごなしに決めつけないことであり、価値観を押し付けないことですね。

そのためにも、子どもの声にきちんと話に耳を傾けることが何より大切なのだと得心しました。

 

『風に立つ 』感想・レビュー

 

一般文芸カテゴリの勝ち組作品(2024/1発売)

 

リアルな小学生ライフ『小田くん家は南部せんべい店』(髙森 美由紀)

冷たい思い出より、温かい思い出の方が涙をこみ上げさせるのは、どうしてなんだろう。(本文より)

 

たま~に出題される作家の先月の新作だ。

 

地元ならではの名産品作りが家業という

少年の小4~小5のあゆみを描いた物語。

 

これがまたMAXレベルでエモいんだわ。

人情、友情、家族愛がビシバシ響くから。

 

かつ素材文適性も極限と言えるほど高い

途中まで使えそうな箇所をメモしてたが

ありすぎて途中からは読むのに没頭した。

 

とりあえず一章の分だけを羅列しとくよ。

 

素材文に使えそうなくだり(一章より)

適性○ 教室で課外授業の行き先が決定

適性○ 課外授業での思わぬドタバタ劇

適性◎ 帰宅すると意外な出来事に遭遇

適性○ 後日、学校で心を揺さぶられる

 

二章以降にも盛りだくさんで宝の山だわ。

これほど素材に適した本はそうそうない

 

ただ『カラフル』のときも書いたんだが

この本も過当競争の一般文芸カテゴリで

作問者が見つけられるかは未知数だろう。

 

例の難易度分類だとやや難相当のこの本。

俺のレビューの一部は以下の通りですわ。

 

読めば心がホカホカになること間違いなし!

主人公はせんべい屋の少年です。

家業があまり好きでなかった彼が、新しい友人と関わるうちに心を揺り動かされ、ともに難しい製法に挑む楽しさに目覚めていきます。

人も場面もありありと浮かぶリアルな描写、圧巻でした。

 

『小田くん家は南部せんべい店』感想・レビュー

 

人と人の絆を感じさせてくれる(2024/2発売)

 

出題されるかもしれない新刊本(2024年4月前後)

4月の新刊は現在判明分では少な目だが

注目作品が2つあり熱量は圧倒的に多い。

 

その後にも気になる作品がバンバン来る

 

毎度言ってるが、未読の作品が多いんで

多分出題向きじゃないのも混じってるよ。

 

4/11発売 ☆先行レビュー済☆

『真実の口』(いとう みく)

中学生たちが保護した少女はもしかして。 

 

4/17発売

『天国からの宅配便 時を越える約束』(柊 サナカ)

真心があったかい天宅シリーズの三作目。 

 

4/24発売

『透明なルール』(佐藤 いつ子)

一軍ぽさを演じる少女が自分の殻を破る。 

 

4/24発売

『俺たちの箱根駅伝 上・下 』(池井戸 潤)

エンタメ小説の旗手が描く箱根路の熱闘。

 

5/7発売 ☆先行レビュー予定☆

『学校に行かない僕の学校』(尾崎 英子)

中2男子が森の中の学校で見つけたもの。

 

5/23発売

『6days 遭難者たち』(安田 夏菜

高校生の日帰りゆる登山で起こるまさか。 

 

5/23頃発売 ☆先行レビュー済☆

『ぼくの色、見つけた!』(志津 栄子)

色覚障がいの少年は苦難の先に何を見る。 

 

5/23発売 ちゅうでん児童文学賞大賞

ブルーラインから、はるか』(林 けんじろう)

少年たちが挑戦するのは意外な自由研究。

 

6/頃発売 ☆先行レビュー予定☆

『かなたのif』(村上 雅郁)

ひと夏のガールミーツガール、とのこと。

 

6/25発売

『girls』(濱野 京子)

3人の中3女子たちの共通点は母子家庭。

 

6/25発売

『わたしは食べるのが下手』(天川 栄人)

食の悩みを抱える二人の少女が望むもの。

 

6/26発売

『あるいは誰かのユーウツ』(天川 栄人)

等身大の中学生を描く6つのストーリー。

 

6/26発売

『光の粒が舞いあがる』(蒼沼 洋人)

家事に忙殺される少女が出会った相手は。

 

6/26発売

『12音のブックトーク』(こまつ あやこ)

短い言葉につよく込められた少女の願い。

 

7/1発売

『いつか、あの博物館で。: アンドロイドと不気味の谷』(朝比奈 あすか)

4人の中学生男女の3年間を描く群像劇。

 

この帯作った人も解ってらっしゃる(4/23発売予定)

 

『真実の口』『透明なルール』だけど

これらは今期の最有力候補になりそうだ。

もう著者買いしていいんじゃねーかな?

 

ちなみに『真実の口』は帯の裏側部分に

俺の書いたレビューが載ってたりするよ。

 

天宅三作目は既読だけど今は黙っておく。

事前情報のリリースを制限されてるから。

ただ、ネットギャリーではレビュー済み。

 

池井戸先生は中受界隈注目ではないけど

頻出テーマかつ書店で目立つことが確実。

 

安田先生はガチ登山をされる作家なので

体験が作品に活かされ凄くなりそうだよ。

 

志津先生のはレビューした通り超優良だ。

 

ちゅうでん大賞作はここ数年頻出なのと

前作が良かったので林先生の新作も注目。

 

尚、タイトルで低学年向けと誤解される

『小田くん家は南部せんべい店』だけど

かなりエモくて素材文適性もクソ高いわ。

 

2月に出たこの作品については次回詳述。

 

発売済みで今後レビューしたい新作

『小田くん家は南部せんべい店』(髙森 美由紀)

『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳 徹子)

『風に立つ』(柚月 裕子)

『うたう』(小野寺 史宜)

『川のある街』(江國 香織)

『遠い町できみは』(高遠 ちとせ)

 

【お薦め記事】

新作の推薦図書一覧(2022年9月~2023年8月発売)

旧作の推薦図書一覧(2022年8月以前発売)

紹介作品からの出題(2024年度中学入試の国語出典・随時更新)

私らしく、いられる場所へ ~或る元サピ女子の再起~

響け、伝われ、先生の願い『ぼくの色、見つけた!』(志津 栄子)

ぼくは平気だよ。不自由なんかじゃない。そう伝えたいのにうまく伝えられない。(本文より)

 

今年の入試で少なくとも3校で出てた

『雪の日にライオンを見に行く』での

ちゅうでん児童文学賞大賞受賞により

注目作家の仲間入りした先生の新作だ


発売日は2ヶ月先の5月下旬の見込み。

 

同時期に直近のちゅうでん受賞作家の

ブルーラインから、はるか』も出る。

新旧の大賞作家の本が書店に並ぶよ~。


さて、今作では個性に負い目を感じる

少年が自分の特性を軸に変わってく話。


道徳的要素がちょっと強めな物語だし

先生や司書に好まれやすい気がするよ


素材文適性の面では少なくとも5つは

使えそうなくだりを見つけたんだけど

ネタバレ禁止なのでフワッと羅列する。


△製作物のことで嫌な思いをする場面

△母の優しさに息苦しさを感じる場面

△先生が親のことをみんなに語る場面

△教室で有意義な意見が飛び交う場面

△祖父の家でクラスメイトと話す場面

 

これだけじゃなく多分まだまだあるよ。

 

平易だから5年生なら読めそうですわ。

今回は俺のレビュー全文を付けとくよ。

 

心が洗われる読書体験でした。


主人公は色覚障がいのある小学生。

劣等感から、家でも学校でも不安を抱え日々を過ごしていた彼が、欠点と疑わなかった個性の美点を知り、目の色を変えてやりたいことに邁進していきます。


共感したわ~。


努力でどうにもならないことに少年が後ろめたさを感じてしまう描写が胸に迫りました。

何とかできないのか?そう思わずにいられませんでしたね。

それだけに、終盤の展開には目頭が熱くなりましたよ。


本人の成長が思わぬ方向に影響を及ぼしていくくだりではこちらまでもウキウキ。


担任の教師がまた本当によくって、著者が訴えたかったことが先生の言葉という形でビシバシ響いてくるので、ぜひ期待していてください。


私は肩の力がフッと抜けるような信念に触れられて得した気分です。


本の紹介文で書かれているように多様性を知るきっかけになるのはもちろんその通りなのですが、それだけではありません。


少年の心のきらめきが、読者の生き方にも働きかけてくるような、とびきりの作品だと私は思います。

 

学びに満ちた一冊(2024/5/23頃発売見込み)