中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

2025-01-01から1年間の記事一覧

犬嫌いさえもらい泣く『ぼくとコテツの最後の3ヵ月』(槻木 こえだ)

今までコテツが、家族みんなを元気づけてくれたように、今はみんなでコテツを支えないといけないよ。(本文より) くまおり純先生の絵も魅力的なこの一冊。 生まれたときにはもう家にいたコテツと 家族同然に暮らしてきた少年が描かれる。 犬には幼少時トラ…

あまねく輝け!『われらみな、星の子どもたち』(増山 実)

何気ない日々が掛け替えのないものであった、と、人はいつも失った後に思い知る。(本文より) 桜蔭、サレジオ学院の出題で注目された 増山実先生の7月に出た素晴らしい本だ。 もうじき60歳になる男が病床の親との やりとりの中で思わぬ事実を知る筋書き…

アチラ側との境目に『こだま標本箱』(谷 瑞恵)

どこかでみんな、この世は見えている世界だけじゃないと信じたがっている。(本文より) 『神さまのいうとおり』の中に入ってた 短編『猫を配る』が突如入試頻出になり 注目を集めた著者の来月発売される新作。 今作も不思議要素が混じるお得意な筋だ。 物の…

胸に残る逸話たち『65人のこどものはなし』(光村図書出版 編)

だけど私は、自分が友だちを仲間外れにしようと画策する少女だったことを忘れてはいない。(『まこっちゃん』の本文より) 季刊児童文芸誌の『飛ぶ教室』に載った 短いエッセイなどを集めた作品集ですわ。 一話三分かからないから集中が切れない。 作家の意…

心を抱きしめてくれる『その本はまだルリユールされていない』(坂本 葵)

七月の小学校の図書室は、夏休みに向けての準備で大忙しになる。(本文より) 3月に発売されて気になっていた作品だ。 生きづらさを抱えていた27歳の司書が 奇跡のようなステキな出会いに恵まれて 自分らしく生きられるようになっていく。 ひとことでいう…

正義をまとって突き進め『ぼくは刑事です』(小野寺 史宜)

人は一度汚れたらもう終わりなのか。汚れは落とせないのか。(本文より) たまに入試で見る作家の5月に出た作品。 題名で刑事モノと思うかもしれないけど 事件を追うのではなくて良識ある青年の 日常を追うような地味かつ沁みる物語だ。 まあ表紙が見事にイ…

声も、心も、一つに重ね『中三・ラプソディ』(花里 真希)

中学生なんて自分のことしか考えない時期だもん。(本文より) カナダ在住作家の来週なかばに出る作品。 歌が苦手な少女が合唱を頑張る物語だよ。 期待に応えなきゃという思いに縛られた 少女が気づきを得ていく流れがGООD! 主人公じゃないんだけど、面白…

教訓あふれる推し本『きみは悪口を言わない』(真下 みこと)

本当の寂しさとは、みんなといても誰も味方がいないことだ。(本文より) 2023年に麻布中で出て注目を集めた 『やさしいの書き方』を初めて収録した 来月25日に発売される連作短編集だよ。 一般文芸カテゴリでは珍しいと思われる 8歳~9歳の子どもた…

出題されるかもしれない新刊本(2025年9月前後)

9月はわりと新作が多い月になりそうだ。 最注目は佐藤いつ子先生の作品かな~? 今回は入試界隈では見ない名前も多いよ。 真下みこと先生の新作は入試にピッタリ。 以下の新作リストは殆どが未読の本ゆえ 問題文に向かない物も含まれてるだろう。 9/3発売 …

火宅のような家で『ほくほくおいも党』(上村 裕香)

宗教は教団への多額の献金などで異常性の証明ができるが、活動家は正義として社会に見られることが多いから理解されづらい。(本文より、党員二世たちの苦悩を抜粋) 先月発売された新人作家の興味深い作品。 ゆるいタイトルだけど中身はバッキバキ。 野党政…

産み落とされた、もうひとつの『リボンちゃん』(寺地 はるな)

完璧にできるようになってから、なんて言ってたら、一生なんにもできないよ。(本文より) 『リボンちゃん』といえば村上雅郁先生 なのだけど同名小説が寺地先生からキタ。 たとえ笑われてもリボン装着をやめない 大人女子の日常を丁寧に描き上げた本だ。 自…

出逢いが彩る『温泉小説』(朝比奈 あすか)

ありふれた旅行と違うステップが楽しい わりと入試に出る作家の4月の作品だよ。 ジャケットはゆったりゆる~い印象だが 主人公達はそれぞれに切実な何かを抱え 旅先での出来事をきっかけに変わってく。 様々な角度から温泉の魅力を伝える上に 生き方のヒン…

あらゆる虐待を許さない『蛍たちの祈り』(町田 そのこ)

お願いします。どうか子どもにつらい思いをさせないでください。お願いします。(本文より) たまに入試に出る作家の先月の新作だよ。 散々傷ついた少年の優しさが沁みるな~。 彼の恩人の生き様ってのも要注目ですわ。 かなりサスペンステイストの濃いぃ本…

消せない罪を抱きながら『ほころぶしるし』(川上 佐都)

わたしはおいしいものを食べて「おいしい」って言うみたいに、簡単に「すき」と口から出そうだった。(本文より) まれに入試で見る作家の先月発売の作品。 恋愛小説って、子供への紹介をためらう 内容のものが少なくないがこの本はOK。 描かれるのは高校…

種火は消えない『天才望遠鏡』(額賀 澪)

むかつくんですよ。親のせいで子供の未来が狭まっていくのを見ると。(本文より) 入試によく出る作家の7月発売の注目作。 栄光とその先や、埋もれかけている才能、 失われた輝きなどに光を当てる短編集だ。 一話一話のクオリティの高さが半端ない 自信をも…

忘れえぬ残像『僕の悲しみで君は跳んでくれ』(岡本 雄矢)

可愛いはずの我が子の足を引っ張ってしまう親や、愛情と執着と支配を混同してしまう親を、教師として見ることは少なくない。(本文より) 大切な記憶を共有する仲間を描く群像劇。 歌人で芸人という作家のデビュー作だよ。 短歌が関わってくる青春小説という…

未知の世界へ『インド象の背中に乗って』(小手鞠 るい)

貧富の差。言葉は知っていても、それをこんなふうに、まざまざと体験したことはなかった。(本文より) 夢のある本を続々と世に送り出している 著者の6月に発売された児童書になるよ。 作品を追い続けていくと明らかなんだが この先生ってどんな経験も無駄…

お手軽レシピも嬉しい『あとはおいしいご飯があれば』(柊 サナカ)

すぐに試せる簡単レシピ付きでお買い得。 新たな食の楽しみを教えてくれる一冊だ。 おかかとチーズのおにぎりは魅力的だし 美味しいものを心のセルフケアに使って 気持ちを立ち直らせるのもアリと感じた。 13のショートストーリーにはまるごと 問題文に使…

直径2キロメートルの冒険『ミクとオレらの秘密基地』(真栄田 ウメ)

明日会えるだろうオカルト女子は、いったいどんなやつなんだろう。それを考えると、ちょっとワクワクした。(本文より) 小5の中学受験生たちが共有する秘密に 心がなごむジュニア冒険小説大賞作品だ。 まったく笑わないと評判の転校生少女を なんとかして…

解り合うって難しい『サンショウウオの歌が聞こえてくるよ 生物部』(森川 成美)

まれに入試で見る作家の3月に出た作品。 このシリーズってだいたい流れで入った 部活で新しい世界を知るって展開なんだ。 本作も明確な目的意識を持って生物部に 来るわけじゃないっていう点で路線通り。 ところが入った後の流れは別物なんだな。 ネタバレ…

最強エッセイとの邂逅『トットあした』(黒柳 徹子)

絶望するより、悲観するより、少しでもできることを探すほうが先だ、と信じてやってきた。(本文より、世界の厳しい現実に対して) 昨日で92歳になられたというから驚き。 黒柳徹子先生の6月に出たエッセイだよ。 これは人生の教科書だ!と俺は言いたい。…

すべては知ることから『Garden 8月9日の父をさがして』(森越 智子)

ぼくの生まれた町には、いたるところに原爆という文字がある。(本文より) 戦争の悲惨さが苛烈に揺さぶってくるよ。 これはぜひとも後世に伝えたい一冊だわ。 心して読んでほしいと俺なんかは思うな。 変に過激なわけじゃないがそこに生きた 人々の姿があり…

動き出す自分史『給水塔から見た虹は』(窪 美澄)

「ガリ勉」なんて言われてもかまうもんか。勉強はこの場所から遠くへ行くための足がかりなんだ。(本文より) たまに入試に出る直木賞作家の最新作だ。 辛さを誰にもわかってもらえない少女と 追い詰められ行き場がない少年の関係が ストーリーの進展ととも…

”家路”の響きは切なくて『サイレントシンガー』(小川 洋子)

こうしてリリカは幼い時代、内気な人々に囲まれて育つことになった。(本文より) わりと入試に出る作家の久々の長編だよ。 沈黙の価値を見直したくなるストーリー。 これほど静謐な話ってなかなかないわ~。 かまびすしい時代だからこそ読みたいね。 特異な…

歌詞が心に浸透する『この声が届くまで』(上田 竜也)

今年6月に発売されて話題を呼んでいる KAT-TUN元メンバーによる初小説。 5ページで断念した別の芸能人の小説が 今年複数の学校で出たので読んでみたよ。 芸能界に疎いのでかな~り新鮮だったな。 20代も後半に差し掛かった青年たちの 個性のぶつ…

共感みっしり『パパたちの肖像』(岩井 圭也,河邉 徹,外山 薫ほか)

僕も偉そうなことを言ってましたけど、家での扱いは犬以下ですよ。お互い、頑張りましょう。(本文より) パパ作家が描く子育てにまつわる短編集。 あと半月ちょっとで発売される作品だよ。 7人の先生たちの違った一面が垣間見え メチャメチャ面白いうえに…

出題されるかもしれない新刊本(2025年8月前後)

8月は珍しく新作があまり来ないようだ。 最注目は椰月先生の作品になりそうかな。 小手鞠先生の本は表紙がメッチャ美しい。 以下の新作リストは未読の本が多いので 問題文に向かない本も多分含まれてるよ。 7/28発売 『ぼくのシェフ』(長谷川 まりる) 料…

壊れた日々にグッバイ『チャリを盗んで、夜明け』(黒川 裕子)

俺らは親ガチャに失敗して、腹減りまくってるわけ。(本文より) あと4日ほどで書店に出回る作品の紹介。 最近わりと入試で見る作家の新作だよ~。 ぶっ壊れた家庭で生きるしかない少年の 日々を包み隠さず描き上げた凄い作品だ。 これは身近な世界がすべて…

次なる話題作!『きみがうたうとき』(桑原 亮子)

5年生の少年少女を活写した連作短編で 児童文芸誌『飛ぶ教室』連載中の作品だ。 誰?と思って調べたらNHKの朝ドラの 脚本を任されるような大物作家だったわ。 児童文学界隈にまた凄い人が現れたな~。 お手本のように編み上げられた物語には かの名作『…

心をなでる柔らかな風『かわせみのみちくさ』(瀧羽 麻子)

女子ばかりで過ごしていると、独特のきずなが育まれやすいものなのだろうか。(本文より、祖母の語りへの主人公の心情) 『たまねぎとはちみつ』の流れをくんだ 頻出作家の今月発売された注目作品だよ。 落ち着いてるけど熱量に欠ける主人公が 葛藤を抱えた…